【現地レポ】なぜドイツの地方都市が「AIベンチャーの聖地」に? 元食肉処理場が起業拠点、その熱気の実態(1/3 ページ)
ドイツ南西部の地方都市が、首都ベルリンを凌ぐ勢いでBtoB・ディープテックの巨大ベンチャー拠点へと変貌している。大学の知財、地場産業の課題、そして強固な民間資本が結びつき、単なる出資にとどまらない「現場実装型エコシステム」を構築。東京一極集中や「資金提供のみ」に陥りがちな日本のオープンイノベーションと地方創生に対し、強力な勝ち筋と教訓を示している。
ドイツのスタートアップが盛り上がりを見せている。
フランクフルト近郊の都市マンハイム、カールスルーエ、ハイルブロン。人口わずか10万〜30万人規模の地方都市群に今、巨大なベンチャー拠点が次々に建設され、若き起業家たちが集まっているのだ。
1920年代の旧食肉処理場跡地や元兵器工場などが、産官学連携のイノベーション拠点へと変貌を遂げた。今回は、ドイツ各都市のベンチャー拠点を実際に訪問し、各施設内での取り組みを取材した。
ドイツのスタートアップ支援の事例からは「出資止まり」の日本型イノベーションを脱し、実証実験(PoC)から実用化に至る「産学官連携の勝ち筋」が見えてきた。
首都ベルリンと差別化 南西3都市で進化する「BtoB」ベンチャー
ドイツ南西部のバーデン=ヴュルテンベルク州。州都シュツットガルトはメルセデス・ベンツやポルシェの本社を擁し、世界屈指の製造業・自動車産業の集積地として知られる。
大学都市であり交通の要衝でもあるマンハイムには近年、多くのベンチャーが集まっている。その南に位置する都市カールスルーエは「IT・ディープテック(深層技術)の聖地」だ。
カールスルーエの北東にある街ハイルブロンも、資金力と産学官連携を背景に、独自の経済・起業エコシステムを構築している。いずれの都市にも、製造業や化学、ITの産業基盤が集積する地理的な利点があり、実業に根ざしたベンチャーが生まれやすい環境があるという。
そして、マンハイム・カールスルーエ・ハイルブロンの3都市それぞれが補完し合う「イノベーション・コリドー」(地域や都市の間をまたぐイノベーション拠点)を形成している。
強固な公的支援 「ドイツのハーバード」大学の存在
マンハイムでベンチャーが集まるのが、ユングブッシュ(Jungbusch)地区だ。同地区は19世紀後半、ライン川沿いの港湾都市として成長を遂げた。その工業地帯の倉庫群を現在、インキュベーション施設へと変えるために、大規模な再開発を進めている。
この地区は産業遺産の空間を生かしつつ、クリエイティブビジネスやIT企業が集積する最新のオフィス群へと生まれ変わってきた。「Popakademie」(ポップアカデミー)は音楽教育や音楽ビジネスの施設が集まる拠点であり、ドイツ初の音楽ビジネスに特化したベンチャー支援施設「Musikpark」(ムジークパルク)もある。同地区は、地元民や旅行客も足を運ぶナイトスポットとしても人気を博す。
そして、ドイツのベンチャーを語るのに欠かせないのが「ドイツのハーバード」と呼ばれ、音楽家モーツァルトゆかりの大学としても知られるマンハイム大学の存在だ。同大学は経済・経営系の最高峰大学で、起業家向けのコースを設けており、起業家コンテストも実施している。企業と連携する「BtoBマッチング」の仕組みが整っており、多くの起業家を輩出してきた。
マンハイム市が運営する都市イノベーションとベンチャー支援のためのプラットフォーム「NEXT Mannheim」(ネクスト・マンハイム)は、IT・AIなどのテクノロジーからクリエイティブ産業まで、8つのインキュベーション施設・コワーキングスペースを運営している。
市の補助金によって低予算で柔軟なオフィス環境を提供しつつ、専門家のコーチングや独自の助成金といった資金援助、国際ベンチャー支援を包括的に担う。ユングブッシュ地区には、夜になると若き起業家や研究者、クリエイターが集う。フォーマルな商談を超えたオープンな意見交換の場(サードプレイス)として機能しているのだ。
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