唯一無二の金属――リコー「GXR」(1):矢野渉の「金属魂」的、デジカメ試用記
カメラマン・矢野渉氏が被写体への愛を120%語り尽くす連載「金属魂」。リコー「GXR」を手にした矢野氏の思いは。
僕はこのGXRを手にした瞬間、心に何か引っ掛かるものを感じた。過去にこのようなカメラを見たことがある。しばらく考えて、それはブロニカの「RF645」というカメラだと気がついた。ブロニカはブローニー版カメラの専業メーカーだった。のちにタムロンの一部門となり、2005年にカメラ事業から撤退している。その最後の機種となったのがRF645である。
発売時期が10年も違い、片やフィルムカメラでGXRはデジタルである。しかしそこには相似するものがいくつかある。まずデザイン。GXRの外観は、直線を基調としたクラシカルな雰囲気と、がっしりとしたグリップが目を惹く。このグリップの形状が、僕にデジャブを起こさせたのだ。
GRやGXのグリップが、フィルムカメラ時代のGR1のデザインを踏襲しているのに対して、GXRのそれは太く、スクエアだ。これはGR1から親離れをするためのきっぱりとした主張とも取れる。
二番目の相似点は、この2機種のカメラが「唯一無二」のカメラであることだ。RF645は「唯一の」レンズ交換式645判レンジファインダーカメラであった。フォトキナで大評判になったと記憶している。そしてGXRは「世界初」のレンズユニット交換式のデジタルカメラである。
モノ作りは模倣から入れ、などと言うが、真似ばかりでは新しい局面は生まれない。だからこのようなオリジナリティのある製品が登場すると僕は心が踊るのだ。
グリップを握る。モードダイヤルまわりが自然に目に飛び込んでくる。おそらくこの瞬間が、GXRを手に入れた者の至福の時だろう。このカメラを購入する層は、大部分がGR DIGITALなどの前モデルを既に使っている人達だ。だからダイヤルなどの配置も一緒だし大して変わり映えがないだろうと予想して、大きく裏切られる。
GRやGXでは、本体の薄さを意識するあまりシャッターボタンが横長の奇妙な形だったのが、大きな円形になった。しかも形状がいい。まるで機械式レリーズのネジ穴にソフトレリーズボタンを取り付けたような形だ。また、電源ボタンもスライド式を採用したり、モードボタンの文字をレリーフ加工したり、またそれにロックボタンを追加したりと細かい部分の質感を高める努力もひしひしと伝わってくる。
このカメラを貫いている思想は「金属」と「機械式」だ。軽量化は最初から考えず、いかに多くの金属を使い、機械としての存在感を高めるかに腐心しているかのように見える。立方体の金属の塊をナイフでこそげ取ったような上面、そして全身に施された梨地の加工。そのどれもが狙い通りで「あざとさ」が感じられない。
もう1つ驚くべきことは、レンズユニットの交換時のスムーズさだ。レバーをリリースするとなんのストレスもなくスルスルとユニットがはずれる。逆にユニットを滑らせてパチンと連結すると、ユニットは微動だにしない。
レンズと撮像面は固定されているから、少しぐらいの「遊び」があっても実用上は問題がないと思われるが、かなり精密な加工技術で作られている。ここにメーカーの意地を感じるのは僕だけだろうか。この連結部に少しでも「ガタ」があったら、リコーのカメラを愛する人々は購入を見合わせるような気がするのだ。
GXRは、写真を撮影する以外に、さらにモノを愛でる楽しみも与えてくれる、贅沢なカメラなのかもしれない。
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