連載
» 2010年11月25日 10時30分 公開

進化するデバイス技術と新しいコンテンツ:米国の電子書籍周辺事情を整理する(中編) (2/3)

[鈴木淳也(Junya Suzuki),ITmedia]

何が課題なのか?

Kindle for iPad Kindleの電子書籍はiPadでも読める。これは「Kindle for iPad」の起動画面

 電子書籍市場で特徴的なのは、デバイス単位の囲い込みではなく、配信プラットフォームであるストア単位での囲い込みにある点だ。

 Appleの場合、iPad(あるいはiPhone/iPod touch)とiBookstore(iBooks)が対の関係になっているが、Amazon.comの場合はKindle StoreとデバイスであるKindleとの関係は必ずしも1対1にはなっていない。Kindle Storeで購入した書籍はPCでも読めるし、さらにはKindleアプリを導入したスマートフォンなどの各種デバイスでも読むことができる。この場合、デバイスとしてのKindleは電子書籍である「Kindle Edition」拡販のための道具の1つに過ぎない。

 つまり、Amazon.comとしては、Kindleプラットフォームが拡大し、Kindle Storeを介した電子書籍の販売が拡大すればそれで十分なわけだ。これは「nook」を展開する大手書店チェーンのBarnes & Nobleも同様とみられ、とにかく安価にデバイスや無料でアプリをばらまいて電子書籍販売増に結びつければいい。積極的なデバイスの値下げを仕掛けるAmazon.comやBarnes & Nobleに対し、ハードウェア販売を主な収入源とするAppleとの最大の違いがここにあると考えられる。

 だとすれば、なるべくユーザーをストア内に滞留させ、より多くのコンテンツを買ってもらった方が事業者にとってのメリットとなる。手持ちの好きなデバイスで読めるという利便性を確保しつつ、ユーザーを囲い込むための手段がDRM(Digital Rights Management:デジタル著作権管理)だ。多くの場合、DRMは著作権保持者がコンテンツの無限拡散や頒布を防ぐためにかけるものだが、こうしたベンダーごとに用意されたストアではユーザーの囲い込みにも利用できるため、双方にとってのメリットになる。Appleが音楽でも電子書籍でも比較的「DRMフリー」なスタンスを示しているのも、上述のような理由であまりDRMや囲い込みに対するこだわりがないためとみられる。

 DRMの存在はユーザーにとって大きなネックとなる。例えば同じ「EPUB」形式の電子書籍であっても、採用するDRMが異なればほかのデバイスで読むことはできない。EPUBは電子書籍では世界標準と呼ばれる方式で、著作権フリーのコンテンツを公開した「Project Gutenberg」で採用されていたり、iPadのiBooksでも標準形式として利用されている。

 また、標準形式ではなくても、Sony Readerをはじめとする各種専用リーダーデバイスやアプリでDRMフリーのEPUBコンテンツを読むことができる(Kindleを除く)。電子書籍の分野ではコンテンツを記述するための「フォーマット」が複数存在することが毎回のように問題となるが、これは制作者側の手間の問題で、ユーザーにとっての直接的な不利益ではない。

 例えばKindleは「Mobipocket」(拡張子はAZW)というプロプライエタリな方式を採用しているし、Sony ReaderなどもEPUB以外の方式として独自フォーマットを持っている。これらはDRMがない限りは相互変換が可能なため、運用上の問題は手間の部分だけだ。またAmazon.comでは、DTPソフトの「Adobe InDesign」で作った書籍データをKindle形式(Mobipocket)で書き出すためのプラグインを出版社向けに提供しており、InDesignのデータを中間形式とすることでフォーマットの違いをある程度吸収しようとしている。

日本市場、あるいはアジア市場の特異性

 フォーマットの違いについて大きな問題はないと書いたが、実際にはコンテンツが提供される地域や環境によって幾つか大きな問題が存在する。日本はその典型的な例だ。

 例えば現行のEPUBのバージョンは2.0.1だが、日本の電子書籍を語る上で重要な「縦書き」「ルビ」はこのバージョンではサポートされていない。もともとXHTML+CSSの拡張で作られたEPUBではアジアのような2バイト圏での事情を考慮して仕様が策定されておらず、そのままではすべての電子書籍を表現するフォーマットとしては利用できない事情がある。

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 日本では比較的以前から「XMDF」というフォーマットが存在し、シャープの「GALAPAGOS」などを中心に採用されているが、このEPUBの弱点を補完する役割を持っているといえる。しかし、XMDFの現行での優位性を盾にEPUBなどの海外仕様の参入障壁を作って、文字通り「ガラパゴス」な環境を作るなという議論もある。

 EPUBは現在、縦組みやルビなどの仕様を取り込んだバージョン3.xの仕様策定を行っている段階で、近い将来にも標準化が完了するとみられる。しかし、視点を変えると、標準化が完了するまでは日本の電子書籍を記述できる標準フォーマットが存在しないことになるため、現行ではXMDFの拡張のほか、国が主導でベンダー中立の「中間(交換)フォーマット」を作ることで、ベンダーごとにフォーマットが乱立する事態を避けるといった議論が行われている。

 この中間(交換)フォーマットの存在は、出版社などがコンテンツ保持用のフォーマットとして採用することで、そこから電子出版を行う際に各プラットフォームごとにコンバータで変換する使い方が可能となるメリットがある。しかし一方で、フォーマット間のわずかな差異がコンテンツの変換時に一部の記述内容を失わせる可能性もあり、実際にこうした仕組みを策定するのはなかなか難しいだろう。このフォーマットと囲い込みに関する話題は、日本の電子書籍市場における現在の最大の問題であり、大きな争点となっている。

 正直な話、現在の日本の電子書籍市場はこうしたフォーマット論争やベンダー間の綱引き、そしてこれを調停して共通仕様を策定しようという動きなど、どちらかといえば泥臭い話題が多い気がする。しかし、ユーザーが望むのは手ごろな価格でより多くのコンテンツが利用できる環境が早期に登場することであり、議論ばかりが先行するのはあまり喜ばしい状況ではない。GALAPAGOSをはじめとする各社のデバイスは今年末から来年初頭にかけていっせいに出そろうことになるが、足下でつまづかず、どんどんビジネスを前に進めてほしいところだ。

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