ゲイツ氏が“白馬の騎士”に?――PeopleSoft救済を考えていたMS

先日MicrosoftとSAPが合併交渉を行っていたことが公表されたが、さらにビル・ゲイツ氏がPeopleSoft救済のため、同社への少額出資を考えていたことが明らかになった。(IDG)

» 2004年06月25日 17時47分 公開
[IDG Japan]
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 米OracleがPeopleSoftの敵対買収を宣言した次の日、Microsoftの会長兼CSA(チーフソフトウェアアーキテクト)ビル・ゲイツ氏は、MicrosoftがPeopleSoftの救済に乗り出すことを示唆する電子メールを同社CEO(最高経営責任者)スティーブ・バルマー氏に送った。

 2003年6月7日付けの電子メールでゲイツ氏は、MicrosoftはPeopleSoftの「独立性を支える」ために、同社の少数株主となる可能性があると記した(6月24日の記事参照)。PeopeSoftにはその見返りとして、「プラットフォームをある程度サポート」することを求めようとしていた。

 このとき、PeopleSoftは既にOracleの買収提案を拒否していた。

 そして現在、77億ドルでPeopleSoftを買収しようとするOracleは、この時のゲイツ氏の電子メールを、買収阻止を狙う米司法省との裁判で証拠として取り上げた。同省は、OracleとPeopleSoftの合併は大企業向けソフト市場の競争を抑えつけ、価格上昇を引き起こすとしてOracleを提訴している(2月27日の記事参照)。

 同じ電子メールの中で、ゲイツ氏はバルマー氏に「SAPを買収するときが来た」と、ドイツのビジネスアプリケーション市場のリーダーであるSAPに言及している。

 Microsoftが昨年SAPに買収を持ちかけたことが明るみに出たのは2週間前、カリフォルニア州サンフランシスコの裁判所で行われたOracle対司法省の審理の冒頭でのことだった。Microsoftはその後、買収取引と合併後の統合に伴うリスクが大きすぎると判断し、結局、両社の話し合いは数カ月前に物別れに終わった。

 それにもかかわらずOracleは、この時のMicrosoftの動きは、同社が企業アプリケーションソフト分野に踏み込んでいることを示していると主張している。

 PeopleSoftへの投資は、Microsoftの「SQL Server」データベース事業のカギとなる。別のMicrosoftの社内メールによれば、同社はOracleがPeopleSoftを買収した場合に、PeopleSoft顧客とのデータベースソフトの取引を失うことになると危惧していた。Oracleはこれら顧客に、自社製データベースソフトを売り込みたいからだ。

 PeopleSoftへの投資を示唆したゲイツ氏の意向は、カリフォルニア州北部地区連邦地裁の審理で明らかになった最新の事実だ。これまでこの訴訟では、MicrosoftがSAP買収を目論んだことのほか、OracleがSiebel Systems、BEA Systems、Lawson Softwareなどの企業買収に関心を示したことが明るみに出ている(6月22日の記事参照)。

 この審理では、MicrosoftとSAPが大きな役割を果たしている。6月23日に行われた証言で、司法省は、「Microsoftは競争上の脅威である」ためPeopleSoftの買収は許されるべきだとするOracleの主張を覆そうと試みた。

 この日証言台に立ったMicrosoftの上級副社長兼ビジネスソリューションズ部門責任者ダグ・バーガム氏は、Microsoftには大規模な複合企業向けに高機能ビジネスアプリケーションを販売する計画はまったくないと語った。「これは当社が狙っている分野ではない」と同氏。

 Oracle、SAP、PeopleSoft各社が提供する製品は大手企業向けで、Microsoft製品と比べると機能面で「差」があるほか、Microsoftは直販部隊とコンサルティング組織を設置していないとバーガム氏は証言した。

 この訴訟の争点は、「ハイエンド人事・財務管理アプリケーション市場の定義付け」だ。同省は、こうしたアプリケーションを提供できるのは、Oracle、PeopleSoft、SAPだけだとしているのに対し、Oracleは、この分野にはLawson、American Management Systems、Microsoftなどの有力ベンダーが存在すると主張している。

 23日にはSAP幹部も証言を行った。SAPは確かにMicrosoftと競合するが、競争しているのは主にローエンド寄りの小規模取引においてだとこの幹部は語った。

 Oracle側の弁護士ダン・ウォール氏は、Microsoftのバーガム氏の証言を覆そうとした。ウォール氏は、大手の見込み顧客数社との会食について記したMicrosoftの電子メールと、Microsoftのプレゼンテーションで使われたスライドを提示した。このスライドでは、従業員数1000人以上、最大4500万ドルのIT予算を確保している企業――Microsoftが定義する中小企業市場を超える規模――への売り込み計画が示されていた。

 バーガム氏は、Microsoftのビジネスソリューションズ部門の業績がそれほど好調でない理由の1つは、過去に製品を売りすぎたことだと説明した。同社は現在、ビジネスソリューションズ部門に合わない業務に時間と資金を注がなくて済むよう、パートナーが顧客の仕様を実行するテクニカル・インプリメンテーション・ヘルプデスクを設置しているという。

 バーガム氏は、同部門の「Axapta」の導入が計画通り進んでいない大手企業の1つとして、オフィスサプライメーカーのEsselteを挙げた。同ソフトはまだ実稼動に至っておらず、この取引はMicrosoftにとって赤字が出る可能性があるという。「損をする格好のやり方だ」と同氏は話したが、Oracleは、Microsoftによるハイエンド市場への進出例としてEsseleteを挙げていた。

 MicrosoftがPeopleSoftの「白馬の騎士」になるというゲイツ氏の提案は、23日の裁判でそれ以上語られることはなかったが、SAP買収に関しては多くの詳細が明らかにされた。例えば2003年6月17日付けの電子メールの中で、Microsoftは「Project Constellation」(Constellationは「星座」の意)と呼ぶSAPとの合併計画についての概略を記していた。

 このメールでは企業をコードネームで表し、PeopleSoftは「Pegasus(ペガサス座)」、Microsoftは「Mensa(テーブル山座)」、Oracleは「Ophiuchus(蛇使い座)」、SAPは「Sagittarius(いて座)」と呼ばれた。Microsoftの米国中小企業担当ジェネラルマネジャー、シンディー・ベイツ氏は、PeopleSoftはOracleの買収提案を阻むだろうが、「業界の力学は変わりつつある」と語っている。

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