第3回 バックアップシステムを構築する●後編バックアップ、基礎の基礎を知る(1/2 ページ)

せっかくバックアップシステムを構築しても、「スペック」と実際のデータ転送速度に差が生じてしまう……というケースもある。システム側のボトルネックを知ることで、そうしたワナに陥らないようにしたい。

» 2004年08月25日 15時00分 公開
[伊勢雅英,ITmedia]

ディスクサブシステムに内在するボトルネック

 前編では、データ転送速度を左右する要素としてテープドライブに搭載されているデータ圧縮機能について取り上げたが、バックアップシステム側に見られる数々のボトルネックもまた、データ転送速度を大きく左右する。テープは一定の速度でデータを読み書きしようとする典型的なシーケンシャルアクセスデバイスだが、いくらテープが十分な転送能力を持ち合わせていたとしても、システムがテープに対して一定の速度でデータを送り込めなければ思った通りのパフォーマンスは得られない。

 バックアップシステム側の基本的なボトルネックは、まずディスクサブシステムに内在している。

 一般に、ディスクサブシステムはテープライブラリよりも十分高速に読み書きできるように思われがちだ。しかし、これはデータの読み書きを開始するまでのアクセス速度を指しており、読み書き開始後の連続的なデータ転送速度はテープライブラリのほうが高速になるケースがある。ディスクサブシステムにはHDD(Hard Disk Drive)が多数内蔵されているが、HDDのデータ転送速度は、プラッタ(磁気ディスクの円盤)の内周部と外周部で大きく異なる。通常、内周に行けば行くほどデータ転送速度が遅くなるため、内周部のデータを読み書きするときにはテープに逆転される可能性があるのだ(図1)。

図1 図1●HDDとテープドライブのデータ転送速度の比較

 また、データの断片化もデータ転送速度に大きく影響する。データが断片化されていると、同一ファイルの転送に多数のシーク動作が挿入され、想定した読み出し性能が発揮されないからだ。

 例えば、UNIX系OSのファイルシステム上にある「/home/userA/Movie.mpeg」というファイルを読み出す場合、/homeのiノード、/home/userAのiノード、/home/userA/Movie.mpegのiノードを読み出した後にそれぞれシーク動作が発生する。ここまではどんなケースでも一緒だが、ここで実データが断片化されていると、データの断片を読み出すごとにシーク動作が連続的に発生することになる。HDDのシーク時間はミリ秒のオーダーと決して小さくないことから、データの断片化によってシーク動作が頻発すると、実質的なデータ転送速度がかなり低下してしまう。

PCIバスのボトルネックに注意を

 その他のボトルネックとして注意しておきたいのが、ストレージインタフェース用のホストバスアダプタ(HBA)を接続するシステムバスだ。多くのシステムには、こうしたシステムバスとしてPCIバスやPCI-Xバスが搭載されているが、特に古いPCIバスを搭載するシステムでは大きなボトルネックとなりやすい。

 通常、サーバに搭載されているPCIバスは、クライアントPC向けよりも高速な64ビットPCIバスである。動作周波数として33MHzまたは66MHzを選択できるが、PCIバスの設計上、66MHz動作ではあまり安定しないことが知られており、安全のために33MHz動作を採用しているシステムも多い。

 この33MHz・64ビットPCIバスの帯域幅は266MB/secだが、複数のデバイスで1本のPCIバスを共有し、さらには半二重通信でデータ転送を行っている。つまり、実質的なデータ転送速度は266MB/secよりもかなり低下する。

 ここで、1GbpsファイバチャネルHBAの帯域幅は双方向で200MB/sec(全二重通信、100MB/sec×2)、2GbpsファイバチャネルHBAは双方向で400MB/sec(全二重通信、100MB/sec×2)であるため、1GbpsファイバチャネルのHBAを1枚装着するだけでPCIバスがボトルネックとなることが分かる。仮に66MHz動作の高速なPCIバス(帯域幅533MB/sec)を採用したとしても、2GbpsファイバチャネルHBAでは1枚までが限度で、2枚も装着すればPCIバスの帯域幅が確実に飽和する。

 したがって、テープドライブを選定する際には、こうしたシステム側のボトルネックを考慮に入れておく必要がある。そのためにも、システムが実際にどれくらいの転送能力を持つかを知っておきたい。転送能力を知るには、ディスク性能を計測するベンチマークテストを利用する方法が一般的だが、最も簡単なのは実際にデータを転送してみることだ。

 「UNIX系OSが動作するサーバであれば、/dev/nullに対してデータをコピーし、その所要時間からデータ転送速度を割り出せます(日本ストレージ・テクノロジー パートナー営業本部 セールスサポートグループ ストレージコンサルタントの小田切隆氏)」。

小田切氏 日本ストレージ・テクノロジー パートナー営業本部 セールスサポートグループ ストレージコンサルタントの小田切隆氏

テープライブラリ選定には余裕を持たせる

 それでは、前編で取り上げたシステム例に適したテープライブラリを実際に選定してみよう。ここでは話を単純化するために、システムの転送能力がフルバックアップ時のデータ転送速度を下回らないことにする(つまりシステム側のボトルネックを考慮しない)。

       1|2 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ