日本ヒューレット・パッカードはユーティリティコンピューティングの実現に向け、仮想化技術群「HP Virtual Server Environment」の機能を強化した。
過剰投資を行うことなく手元にあるリソースをフルに活用し、ユーザーが使いたい時には常に、必要な品質でアプリケーションを提供できる――言葉は違えど「アダプティブエンタープライズ」や「ユーティリティコンピューティング」といったコンセプトで大手IT企業各社が提唱しているのはこんな未来の世界だ。これを実現する上で重要な鍵を握るのが「仮想化」である。
日本ヒューレット・パッカードは9月15日、この仮想化をより高いレベルで実現するため、仮想化技術群「HP Virtual Server Environment(HP VSE)」の機能を強化するとともに、同社のUNIX OS「HP-UX 11i v2」にいくつかの新機能を追加することを明らかにした。しかもHP VSEは「純HP-UX」な環境だけを対象にするわけではない。Linux、さらにはWindowsも含めたヘテロジニアスな環境での仮想化を実現するため、マルチOS対応を進める。
Oracle DBやBEA WebLogic、SAPといったビジネスアプリケーションを稼動させる上で重要なのは、システムが止まらないこと。そして処理のピーク時にも十分なパフォーマンスを確保することだ。だが、そのようなシステムを実現するには相当の投資が必要であるにもかかわらず、平常時には大半のリソースが使われないまま、ということになる。米HPのエンタープライズUNIX部門ディレクター、ロバート・ケネディ氏の言葉を借りれば「オーバー・プロビジョニング」の状態だ。
仮想化技術はこの問題を解決するために登場してきた。CPUやハードディスク、あるいはネットワーク帯域といったコンピューティングリソースを、物理的な場所にとらわれず1つのプールとして扱い、需要や重要性に応じて柔軟にアプリケーションに配分する、というアプローチである。
これを、「ダイナミックに、かつ管理者の手を煩わせることなく自動的に」(米HPの仮想化/ユーティリティ・コンピューティング担当ディレクター、ニック・バンダージープ氏)行うためにHPが提供しているのが、HP VSEだ。各種リソースのコントロールを行う「マネージャ」のほか、クラスタ化などを通じて実現される「アベイラビリティ」、リソースを分割する「パーティショニング」、それに使用量に応じた課金を可能にする「ユーティリティプライシング」といった要素からなる、大きな枠組みである。
このHP VSEを活用すれば、「SAPを稼動していたあるマシンに障害が生じた場合には、急遽、Oracleが動作する別のサーバにその処理を割り振る。それでもリソースが足りず、サービスレベルを満たせないようであれば、新規にCPUを追加する」(ケネディ氏)といったことが可能になる。負荷が再び低下すれば、リソースを開放すればよい。
「サーバやストレージといった各要素をすべて最適化するだめでなく、緊密に統合された仮想化を実現していく」(バンダージープ氏)。
今回の発表でHP VSEに新たに追加された要素はいくつかあるが、たとえば、2005年上半期に出荷予定の「HP Global Workload Manager」は、HP-UXとLinuxの両方にまたがって、アプリケーションに対するリソースの割り当てを管理できる。CPUの利用率や目標サービスレベルに基づいた割り当てが可能だ。
逆にソフトウェアパーティショニングを実現する「HP Integrity Virtual Machine(VM)」では、物理的には1つのCPUとI/Oリソースを複数のインスタンスに配分し、共有できる。しかも、HP-UX 11i v2とLinuxというマルチOSでの共有が可能で、Windowsのサポートも検討しているということだ。
こうして実現される仮想化環境にエンタープライズアプリケーションを適合させるため、HPでは各社と協力するのはもちろん、統合を支援するためのツールキットを用意する。
またHP-UX側でも仮想化技術への対応を進めていく。6月にリリースされた、仮想化とクラスタリングを組み合わせて短時間での障害復帰を実現する「Serviceguard extension for Faster Failover(SGeFF)」はもちろん、2005年いっぱいをかけて、Global Workload ManagerやIntegrity VMへの対応を進める計画だ。
HP-UX 11i v2の拡張機能としてはさらに、プロセスやファイルごとに「コンパートメント」を分け、より強固なセキュリティ保護を実現する「Secure Resource Partitions for HP-UX 11i」の実装が予定されている。この機能では、ロールベースのきめ細かなアクセス制御や監査も可能になるといい、2005年前半に提供される見込みだ。
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