「情報戦争」を制するものが小売ビジネスを制すITが変革する小売の姿(2/2 ページ)

» 2004年10月14日 21時35分 公開
[松吉章,アール・エス・アイ]
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 一般に、小売業者は、新規出店時に市場調査を行い、世帯数や地域別および商品別消費額によって、商圏ごとの消費額を算出する。そして、競合店や昼間人口などの付帯情報と併せて、目標売り上げを立て、粗利から販売管理費や投資回収などの計画を立てている。

 ここで問題になるのは、一度調査をするとその後何年も新たな市場調査をしなくなってしまうことだ。世帯数や競合状況は時とともに変化していくため、少なくとも3年に1度は調査をし直すべきだ。

 一方で、市場調査そのものが甘いこともある。小売店舗の営業時間は長くなる傾向にあり、時間帯別の客層や品ぞろえについてもっと詳細に調べなくてはならない。生活行動や消費動向の観点での調査も求められる。

ライフスタイルマーチャンダイジングの実践

 こうした環境の変化から、最近では、「ライフスタイルマーチャンダイジング」という言葉を聞くようになった。これは、消費者の嗜好と小売業界が提案する生活のズレを認識し、小売業者が商品の仕入れを最適化していく取り組みのこと。しかし、現状の品ぞろえ基準のみでライフスタイルを測ってもあまり意味がない。キメ細かく調査し、しっかりと市場を把握してこそ、精度の高い仮説を立てることができるからだ。

 また、各小売業者は、改装オープン時の陳列台帳が、しばらく経つと使えないものになる傾向があることにも対応するべきだ。陳列台帳は、店頭の棚などにどの商品を陳列するかを記入した帳簿のこと。新オープンに備えて作った特別な陳列台帳の内容と、従来の顧客が親しんだ品ぞろえの間にズレが生じてしまうことがあり、結果としては売り上げと利益の減少を招く。

 一般に、改装時は新たなコンセプトを基に陳列台帳が作られることが多い。だが、品ぞろえは常に、顧客の視点に立ち、「鮮度」の高さを意識する必要がある。そのためには、商品本位ではなく顧客本位の観点から、従来の情報を加味した陳列台帳の管理をするべきだ。継続こそ力なりではないだろうか。

 陳列台帳の問題からも分かるが、今後の小売業者は、情報の把握という基本的な活動を見直すべことが求められる。基本情報から仮説を立て、自店の情報で検証することにより、初めて具体的な問題点や課題に気づくことができる。それが、課題解決への的確なアクションを起こすことにつながるのだ。

 スーパーマーケットや量販店では、1店舗が管理すべき商品アイテムは1万にも上り、さらに増える傾向にある。また、顧客数も年を重ねるごとに増え、数万にも及ぶ。それに店舗数を掛け合わせると、1つの小売業者が全社として扱う顧客は天文学的な数に上ることがある。そして、このような膨大なデータを適切に処理することが、ITに課せられた役割であることは間違いない。

 だが、膨大な顧客が生み出す数百億というトランザクションを処理するためのシステム化そのものは、手段であって決して目的ではない。重要なのは、その情報から、顧客満足度を向上させてロイヤルティをアップし、価格や在庫水準の最適化を図り、結果として収益を得ることが何よりも大切なのは言うまでもない。

 つまり、経営戦略を実現するための手段としてシステム化を考えなくてはならない。そのためには、ITに関心がある人が少ないと言われる小売業界でも、今後は社長を含めて経営レベルで情報システムに取り組むことが求められる。情報を制する小売業が市場を支配するといっても過言ではない。小売業界は、製品を納入する製造業者や顧客も交えてデータを連携する「情報戦争」の時代に既に入っている。

 低い投資コストから高いリターンを得る「究極の小売業者」になるチャンスはどの企業にもある。その姿は、顧客の購買動向などの情報を市場から吸い上げて、自社の状況をリアルタイムに感知するマーケティングをベースに、その情報から、「適時、適品、適量、適価、適場」というマーチャンダイジングの基本5原則に沿って品ぞろえをすることが基本になる。これを実現するためには、情報システムと生産および物流が密接に連携しなくてはならない。


著者:松吉章氏(アール・エス・アイ代表取締役、アクチャ−コンサルティング・エグゼクティブコンサルタント)

 日本NCRで商品管理などのPOS・EDPシステム営業に従事した後、システム企画販売企業を経て、アール・エス・アイを設立。大手コンビニエンスストア向けの店舗情報企画やPOSシステム企画、EDI業務企画コンサルティング、CRMコンサルティングなどに取り組む。POSデバイスインターフェースの標準化を推進するESOGや、ARTS(Association for Retail Technology Standards)などの標準化団体の日本代表、流通システム開発センターの委員なども歴任。

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