熊坂×井庭「0番目の対論」SFC Open Research Forum 2004特別対論(3/4 ページ)

» 2004年11月01日 16時42分 公開
[ITmedia]

熊坂 あなたたちのようなSFCの遺伝子をもった若手がスタッフとして入ってくることによって、その辺は一挙に膨らんでくると思います。1999年のSFC Open Research Forumで、金子郁容さんが「インターネットは遅れてきたテクノロジーだ」と言いました。その言葉がとても印象に残っています。

 かつて社会を変革するにはふたつの方法がありました。ひとつはテクノロジー、もうひとつはイデオロギーとか宗教という「思い」の世界です。今は新しいテクノロジーで社会を動かさざるを得ない状況ですが、それに呼応するような「思い」も必要です。

 金子さんも僕も学生運動の世代ですが、そのときにもしインターネットがあったならば、僕たちはもう少し真面目に社会変革に貢献できたかしれません。やはり「思い」をどういう形でつくるかがいま求められているような気がします。

「忘れる」仕組みが重要

井庭 僕は最近、「忘れる」ということの重要性を感じています。例えば、ソーシャル・ネットワーキング・サービスなどもつながるとそのままになってしまいます。自然には切れない仕組みになってしまっています。高度経済成長やバブルの記憶が忘れられないと、高齢社会が悲観的になってしまいますから、忘れる仕組みをどうやって社会の中に取り入れていくかが重要だと思います。

熊坂 花束は永遠にはもたないし、お菓子も食べれば消えてしまいます。しかし、写真なんかを送られると、「いらないよ、これ」と思っても、捨てられなくて困ります。

井庭 捨てられませんね(笑)。

熊坂 テクノロジーで溜めるほうは進んだけれど、賞味期限がくると消える、削除される、ということが、もっとスリムな社会を考えたときに必要です。

井庭 蓄積メディアとして最もいいのは紙だと言われていて、100年以上も保存できます。しかし、コンピュータテクノロジーの場合は、10年たつとメディアが読めなくなってしまいます。しかし、これは物理的に読めないから忘れざるを得ないといった強引な形だと思います。

 「忘れる」というのは、「なくなる」こととは微妙に違います。物理的になくなれば、ふとどこかで思い出したりすることもできなくなります。その解明にはたぶん脳の仕組みなどが参考になると思います。

信頼の再構築が次の社会システムを

熊坂 情報が無限に入ってくるようになればなるほど、選択や消去の仕組みをどれだけダイナミックに取り入れていくかということが重要なテーマになります。

 また、最近では「トレーサビリティ」が重視され始めています。信頼がなくなったことによって、僕たちは何でもトレースしなければならないという状況に陥っています。信頼というものが明らかに社会のシステムとして失われてしまいました。僕たちはそれを再構築しない限り、次の社会のシステムをつくることはできません。

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