業務アプリケーションもオンデマンドで

米salesforce.comで技術統括担当副社長を務めるパーカー・ハリス氏に、同社が提供する「オンデマンドCRM」について聞いた。

» 2005年03月15日 22時30分 公開
[怒賀新也,ITmedia]

 「ソフトウェアは作るのではなく、買う時代」。水道や電気のように使った分だけ支払うユーティリティコンピューティングにおける基本的な考え方にもなっている。そして、現在では、サーバやストレージのリソースなどのシステムの基盤レベルだけでなく、企業の競争力の差別化にも直接関わってくるフロントエンドの仕組みにも浸透する兆しを見せており、オンデマンドの利用は企業ネットワークのいよいよ上層部を目指そうとしている。

 この一例として、「オンデマンドCRM」を掲げるセールスフォースドットコムが挙げられる。SFAやコールセンターをはじめ、CRMの全般的な機能をソフトウェアとして提供している同社の特徴は、ユーザー企業が自らのサーバマシンやデータベースを使用せず、ASPの形で利用することにある。また、IBMも1月に、ASPサービスを提供するCorioを買収し、アプリケーションの領域でもオンデマンド戦略の強化を図った。Corioは、AribaやEpiphany、Oracle、SAP、Siebel Systemsなどのアプリケーションを、サブスクリプションを基本とするサービスとして提供している企業だ。

 米salesforce.comで技術統括担当副社長を務めるパーカー・ハリス氏は、企業の情報システムのアーキテクチャについて、1970年代のメインフレーム、90年代のクライアントサーバという変遷があり、「今後はオンデマンドアーキテクチャが主流になる」と話す。

パーカー・ハリス氏

 Salesforceでは、ユーザーはWebブラウザからCRMの機能を利用する一方で、バックアップやセキュリティ対応などのシステムの管理負担が、コスト面からも作業面からもクライアントサーバシステムと比較して軽くなる。ASPを採用していることにより、ハードウェアやデータベース、CRMアプリケーション自体も物理的には米国に存在しており、自ら操作できる範囲は自ずと限られているからだ。

 逆に言えば、この点がASPモデルを利用する場合の欠点でもある。業務要件に変更があっても自社の都合ではカスタマイズが難しいなど、「管理が楽」であることが諸刃の剣になるわけだ。

第2世代に向かうASP

 だが、ハリス氏はこれについて「ASPは“第2世代”に移行したことで進化した」と切り返す。一般に、ASP第1世代は、1つの顧客に対して1つのシステムが提供される「シングルテナント」の仕組みで運用されていた。基盤となるサーバリソース以外の製品、たとえば、データベースやアプリケーションなどは、ユーザー企業が自らライセンスを購入してシステムを運用していた。そのため、導入してもコスト削減という点では効果を出しづらい傾向があった。

 一方で、第2世代では、すべての顧客が1つのシステムを利用する「マルチテナント」が採用されている。「ビルディングと同じように、たくさんの企業が入居する一方で、水道や電気などの設備は共有できる」(同氏)

 また、「CustomForce」によりクリックだけでカスタマイズできたり、パフォーマンスに関する問題もクリアされているという。さらに、プラットフォームである「SForce 5.0」を利用することにより、Webサービス対応を含め、他システムとの接続性も確保したとしている。同社は、150社以上のパートナー企業と連携ソリューションを展開しており、こうしたプラットフォームが基盤となる。

ビジネスモデルとしての成功

 3月9日に、同社は東京でユーザーカンファレンスを開催し、700名近くの来場者で満席になった。パートナー企業として講演したNTTコミュニケーションズの武藤弘和氏は、「インターネットが企業に資源からの自由を提供しようとしている」と話し、“オンデマンドCRM”をプッシュする形になった。同氏は、ブロードバンドの進展でこの傾向が今後も継続すると話している。

 同社について考えるとき、テクノロジーというよりは、ビジネスモデルとしての成功であるという印象は強い。競合他社とCRMの機能面での比較では必ずしも勝るとは言えないものの、「CRMの導入効果が分からない、失敗するプロジェクトが非常に多い」といったここ数年のCRMへの一般的なイメージも後押しする形で、機能よりはコストに敏感な企業が特に導入を進めている。

 「ダメならやめればいい」という導入スタイルが可能であることもASPの利点。「サービスとしてのソフトウェア」をビジネスモデルとしてブラッシュアップした点に、同社のここまでの成功がある。

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