Asianuxでアジア圏の標準を目指すミラクル・リナックス

Oracle製品との相性の良さが目立つミラクル・リナックス。しかし、Asianuxをコアとしたことで、アジア圏特有の問題にも果敢に立ち向かっている。

» 2005年03月18日 07時52分 公開
[ITmedia]

 ターボリナックスがまずはミッドレンジをしっかりと押さえようと独自の方向性を出しているように、ミラクル・リナックスも独自の方向性でエンタープライズ市場のニーズにこたえようとしている。

Asianuxをコアにアジア圏の標準を狙う

 ミラクル・リナックスは2004年6月、「MIRACLE LINUX V3.0 Asianux Inside」の出荷を開始した(関連記事参照)。「MIRACLE LINUX Standard Edition V2.1」から実に2年ぶりのメジャー・バージョンアップとなる。

 製品名に含まれる「Asianux Inside」とは、Red HatやSUSEに比肩しうるアジア圏の標準Linuxディストリビューションの座を確立することを目指す「Asianuxプロジェクト」の成果物であることを意味している。同プロジェクトは現在、ミラクル・リナックスのほか、「Red Flag Linux」の開発元である中国のRed Flag Software、そして2004年10月にこの輪に加わった韓国のHaansoftの3社によって推進されている。

 3社は、北京にあるオラクル中国開発センター(China Development Center:CDC)内にあるLinux Joint Development Centerに開発者を派遣、現在、次期バージョンとなる「Asianux 2.0」を共同開発しており、2005年7月の完成を目指す。Asianux 2.0ではRAS(Reliability、Availability、Serviceability:信頼性、可用性、保守性)の強化をコンセプトに、Linuxカーネル2.6の採用や、基幹系システム構築や商用UNIXからの移行を促進する機能が搭載されるほか、KDEをベースとした設定/管理ツール「ReFineD」を搭載することで操作性を向上させようとしている。さらに、OSDL(Open Source Development Labs)が提唱するCGL 2.0に準拠させ、信頼性、可用性を向上させる計画だ。また、Red Flagが従来強みを持っていたGUIの部分では、同社の「ReFineD」(KDEベースのGUI)を採用、操作性の向上を狙っている。

 実際の製品は、同プロジェクトで開発されたAsianuxを共通のインストールCDとし、コンパニオンCDとして各社の独自パッケージを提供する形で製品がリリースされる。前述の「MIRACLE LINUX V3.0 Asianux Inside」はAsianux 1.0をコアに持つ。Asianux 2.0をコアに持つ製品は2005年10月ごろに登場予定で、ミラクル・リナックスが「MIRACLE LINUX V4.0 - Asianux Inside」、Red Flag Softwareが「Red Flag Advanced Server 5.0 - Asianux Inside」、Haansoftが「Haansoft Linux 2005 - Asianux Inside」という、ブランド名でそれぞれ製品化する予定。また、製品化に関しては、各国におけるLinuxの価値などを考慮し、最適な方法での販売が行われることとなっており、各社のビジネススキームや価格はお互いに干渉しない、と決められている。

Oracleとの親和性ときめ細やかなサポートが最大の武器

 Red Hatやノベルが多彩なプラットフォームに対応するのに対して、現時点のAsianuxは、基本的にx86プラットフォームを中心とした製品ラインアップを想定している。ミラクル・リナックスの現行の製品ラインアップを見ると、IA32向け「MIRACLE LINUX V3.0 - Asianux Inside 」、AMD64、EM64Tなどx86-64ビット版として2005年2月から出荷を開始した「MIRACLE LINUX V3.0 - Asianux Inside for x86-64」(関連記事参照)、前バージョンの「MIRACLE LINUX Standard Edition V2.1」の3種類が用意されている。「MIRACLE LINUX V2.1」ではItanium 2に対応したモデルも用意されていたが、こちらは現在受注終了となっている。Itanium対応製品は、次期バージョン「MIRACLE LINUX V4.0」からの出荷を予定しており、MIRACLE LINUX V3.0での製品化の予定はない。結果、「MIRACLE LINUX V4.0」での対応プラットフォームは、IA32、ItaniumおよびAMD64、EM64T、そのほかにIBM OpenPowerをサポートする予定である。

 現時点でRed Hatやノベルと比較すると、適用範囲やリリースタイミングで完全に水をあけられている格好のミラクル・リナックス。対応プラットフォームの適用範囲で考えるとターボリナックスのようにミッドレンジが主戦場と思われがちだが、実際には、オラクル製品と組み合わせたハイエンドの領域でも豊富な実績を持つ。MIRACLE LINUX V3.0のリリース直後には、「Oracle Database 10g」をバンドルした「MIRACLE LINUX with Oracle 10g」を出荷するなど、オラクルとの結びつきは強い。このことは、Asianuxの開発拠点がCDC内にあることからもうかがえよう。

 特に、I/Oチューニングまでを含めたOracleデータベースの緊密なサポートには定評がある。具体的には、カーネル・パラメータがあらかじめOracle向けに最適化されていることや、GUIベースの導入支援ツールによってOracle導入の敷居を下げている点がユーザーに高く評価されている。

 米Oracleでは、自社内にLinuxカーネルのエンジニアを用意し、Linuxかデータベース、どちらに問題があるか分からない時点で動作について問い合わせを受けた場合でも迅速な対応を保証している(合わせてレッドハットにも重要度の低いバグを対応してもらっている)。一方、日本オラクルではミラクル・リナックスがバックエンドを担当しており、迅速な対応を可能にしている。もちろん、2次サポートには前述のLinux Joint Development Centerが控えている。一般的な海外ベンダーのサポートと異なり、顧客と同一のビジネス・タイムで緊密なサポート/サービスを迅速に提供できるというわけだ。

 こうした充実したサポート体制を武器に、同社は、サポートの拡充を発表している(関連記事参照)。従来、製品の初期出荷後6年間提供していたサポート・サービスを、初期出荷後7年間提供するほか、「エンタープライズ・サポート」、「1ショットサポート」、「24時間サポート」の3種類サポート・メニューに追加することで、よりきめ細やかなサポートを提供しようとしている。

特有のニーズに応える施策も

 Oracle製品との相性の良さが目立つが、コアの部分がAsianuxとなったことを機に、国際化/日本語対応の強化にも注力し始めている。MIRACLE LINUX V3.0では、Shift-JISロケールへの標準対応が実現しており、既存のWindows/商用UNIX上のデータ資産を容易に移行可能にしたほか、人名などを正しく扱う必要のある官公庁などでの利用を視野に入れて、UTF-8外字をサポートするなど、国際化対応の分野においてRed Hatやノベルをしのぐ面も見せる。


 Asianuxはアジア圏の大本命と言われることも多いが、ターボリナックスの回でも解説したように、中国のLinux市場がまだまだ未成熟で競合も多いこと、そして、結果的にUnitedLinuxのようにクローズドな開発形態となってしまっていることに若干の不安要素もあるが、アジア圏特有の要求に応えることと、Oracle向けのカスタマイズを武器にエンタープライズ市場で安定的なポジションを確保することが予想される。

 今回紹介した4社のほかにも、Debianなど注目すべきディストリビューションは存在するが、当面のエンタープライズLinuxの市場はこの4社がリードしていくことになるだろう。Linuxの導入を検討しているユーザーは、その動向に十分注意してほしい。

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