米州政府のVoIP導入――それぞれの事情

複数の拠点を統合する必要のある州政府では、IT担当者がVoIP導入で頭を悩ませている。(IDG)

» 2005年05月16日 12時37分 公開
[IDG Japan]
IDG

 米州政府のVoIPに対するニーズは高いが、その採用は遅れている。まずはVoIPに対応するインフラを導入する必要があるからだ。

 複数の会社を買収する企業は、ネットワークの統一という課題を抱える。州全体のIT担当者は、それと同じ状況に置かれており、包括的なアーキテクチャや標準なしに構築された、州内各政府機関ごとのネットワークを統合しなければならない。National Association of State Telecommunications Directors(NASTD)の北東支部の会合で先週、多くの州政府IT担当者がそう語った。

 バーモント州は、この問題を抱えていない数少ない州の1つ。同州は現在、すべての政府機関でキャリア提供のIPセントレックスサービスを使っているからだ。情報イノベーション局の副コミッショナー、クリストファー・キャンベル氏によれば、同州はVoIPに対応するためデータWANをアップグレード中。

 「QoSを備えたVoIP化に向けてWANの改良を進めている」と語るキャンベル氏だが、「わわれわれの姿勢はきわめてオープンだ」とする。現在結んでいる契約があと2年で切れる。この期限切れに合わせて実施する州全体の電話サービスの入札で、VoIPの提案もあるものと期待しているが、提案依頼書(RFP)に技術名として「VoIP」を指定するつもりはないという。

 ほかの州は、州内の各政府機関でのVoIP、およびこれら各政府機関同士のVoIPを実現できそうな形での、州全体のWAN/LANアーキテクチャをまだ策定中だとしている。NASTDにはエンタープライズアーキテクチャの作業部会があり、メンバーはそこで州のネットワークをよりよく統一するためのアイデアを交換している。アップグレードとして考えられるのは、仮想LAN(VLAN)とPower over Ethernetに対応するLAN、トラフィックシェーピングとQoSに対応するWANなど。

当面の必要を満たすIP-PBX

 一方で、VoIPに関するポリシーがはっきりしていない州では、IP-PBXが急浮上している。各機関の当面の必要を満たすからだ。例えば、ウェストバージニア州では、どのベンダーを使うかに関して優先すべき計画も基準もないため、3つの州政府機関がそれぞれ異なるベンダーを使っていると同州管理局のISスペシャリスト、カルロス・ネクージ氏は語る。

 ウェストバージニア州警察は70以上の警察署を接続するのにNortelのIP VoIPを使っている。警察署の中には、無人になることもある署もある。システムは、無人の警察署にかかってきた電話を、対応できる警察署に転送するようになっている。同様に、州高速道路局は本部ビルにCiscoのIP-PBXを導入済みで、このVoIPネットワークを10カ所の地域拠点ビルにも拡大する計画。

 ネクージ氏所属の管理局には、東芝のシステムを使ったIP電話があるが、このシステムは、データ回線で接続済みの2つのオフィスを電話でつなぐために購入したもの。「われわれはVoIP化を目指したわけではなく、ともあれ数台の電話で事足りた」と同氏。

 VoIPが新しい施設に多いのは、新しければ最初からVoIPに対応したデータネットワークを簡単に導入できるからだ。メーン州は、オーガスタの精神療養所と、災害時の危機管理サービスに当たる州の新しい公安局にVoIPを導入したと、州の総務・財務局のネットワークサービスディレクター、エレン・リー氏。

 いずれのケースでもVoIPが選ばれたのは、施設が新しく一からネットワークを敷設することになっており、VoIPに必要なQoSに対応する設計にできたからだ。現時点で、メーン州のVoIP利用は各政府機関内のみで、WANは介していないとリー氏。

 バージニア州の福祉局と保健局は、新しい施設に移る際、急きょ電話システムが必要になった。両局がCiscoからIP電話システムを調達したのは、すぐ購入できる指定業者がCiscoだったからで、従来PBXベンダーは指定業者リストに含まれていなかったためだと同州情報技術局アソシエイトディレクターのアン・ハードウィック氏は話している。

 ペンシルベニア州ではVoIPは認定外だ。全州的なポリシーで明確にVoIPを禁じ、すべての都市部でIPセントレックスの使用を義務付けている。だが、州内の各政府機関はVoIPを求めてこのポリシーに異議を申し立てていると、州知事執務室の州ネットワークサポートサービスマネジャー、バレリー・ロング氏は語る。「これはわれわれ自身の過ちだ。上層部に受け入れられるようなVoIPポリシーがないのだから」と同氏。

 ロング氏によれば、ペンシルベニア州ではキャリア提供のVoIPサービスに加え、IP-PBXも含んだVoIP試験プログラムを検討している。試験運用は、アップグレードしなくてもVoIPに対応可能なネットワークインフラ導入済みの州内政府機関で実施されるだろうと同氏は説明する。

 メーン州はVoIPに対応するにはインフラをアップグレードする必要があり、計画を立てなければならない。「まずはしっかりしたインフラを整える必要がある」とリー氏。州のVoIP戦略がまだ固まっていないため、実現時期は定かではない。

導入のメリットは?

 VoIPのメリットを疑問視している州もある。ニューヨーク州では、州内の各政府機関は技術局からネットワークと電話サービスを購入できる。しかし、同局テレコミュニケーション部ディレクター、ダニエル・コーコラン氏によると、VoIPを要求する声は多いが、同局は今のところVoIPサービスを提供していない。

 州の現在のPBXはすべて、少なくともIPには対応しているため、同局は運用コスト削減の1つの方法として、IPによるPBXリンクの可能性を検討しているとコーコラン氏は説明する。だが、一部の機関から、そうしたコスト削減の恩恵を還元するよう求める声があり、コーコラン氏の部では、その算定をまだ済ませていない。同氏は大きな恩恵が得られるとは判断しかねるとしている。

 「われわれには、VoIPに飛び付かない確かな根拠がある」とコーコラン氏。同氏は各機関が、従来の電話では対応できなかったサービスをいかにサポートできるかという観点で、VoIPの必要性が具体的に示されることを期待しているが、今のところどこの機関も何も提示してこない。「われわれはVoIP化の強い圧力をかけられているが、ずっと『なぜ?』と問い続けている」

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