Skypeと無線ブロードバンドが及ぼす通信業界への影響(2/7 ページ)

» 2005年06月21日 21時00分 公開
[清成啓次,ITmedia]

 ソフトフォンのアイデア自体は30年以上前からあったものの、実際に一般の人が使い始めたのはPCのCPUクロックが300MHzに近づいてきたあたりからだった。ムーアの法則のグラフで言えば、Pentium II登場の頃である。それ以前のCPUパワーとモデムのコンビネーションでは、今のようななめらかな音声通信を実現できなかったのである。

ムーアの法則 ムーアの法則

 ソフトフォンの普及にもう一つ不可欠だった要素がインターネットであることは言うまでもない。

 一般にインターネットのWebページやファイル転送などは、TCPという「コネクション型通信」(相手との接続を確立してからデータのやり取りを行い、送受信の途中でデータが紛失してもデータの再送を行うのでデータ内容が保証される)によって成立しているが、このTCPで音声や映像のパケットを送受信すると、会話そのものが成り立たないくらいタイムラグが発生する。

 そのため、インターネット上の電話やテレビ電話はUDPという「コネクションレス型通信」(相手とのデータの検証接続を確立しないでデータを相手先に送り、送信の途中でデータが紛失しても再送しない)を使い、相手と音声データを送受信する。したがって、データの内容は保証されず、スピードが優先されるため、通信コンディションが悪い場合は音声として認識できなかったり、会話が途切れたりするわけだ。これはソフトフォンそのものの原理的な問題なのでSkypeでも解決はできない。

 現在、SkypeはソフトフォンとしてMSN MessengerやYahoo! Messenger以上の評価を受けている。だが、独自のSkypeプロトコルが徐々に解析され、ルータ越え技術やP2P技術情報も増えてきたことを踏まえると、MicrosoftやGooleがその巨大なインストールベースを背景にSkypeを超える「ソフトフォン+α」を発表してもおかしくない状況になってきた。

 現在、MicrosoftとGoogleの両社は「地球そのものをインターネット上に実現するMap構想」を実現すべく競争を行っている。これが実現すると、あたかも自分が衛星や鳥になったごとく地上の建物や道路が丸見えになってしまうのだ。ひとことで言うならカーナビの世界規模3D版に近いイメージのサービスである。それが実写と地図の2つの表示モードで操作できるのだから恐るべきサービスになる可能性がある。

そしてこの技術は、Web以上に現実の生活とリンクするため、電話機能が必須になる。例えば”新宿駅近くのイタリアンレストラン”と入力すれば直ちに登録されているレストランが場所がバルーン表示され、マウスカーソルをそこにオーバーレイすれば住所と電話番号が表示され、電話で予約できるという寸法だ。

Google Maps Google Maps(http://maps.google.com/
MSN Virtual Earth MSN Virtual Earth(URL公開は2005年夏以降)

 電話する場合は通常の電話を使うのが一般的だが、ソフトフォンを使うと画面の電話番号をクリックするだけで電話がかけられるから非常に便利である。実際にSkypeOutを使えば、Google MapsやMSN Virtual Earth上でも電話機能は簡単に実現できるわけだが、Skypeで電話させるか自社ソフトフォンで電話させるかの選択は、企業のビジネスモデルに天と地ほどの格差をもたらすから両社がおいそれとSkypeを使うとは思えない。

 自社で地球レベルのソフトフォンディレクトリ(電話番号はすでに無意味になっているかもしれない)を構築すると、そこから得られるビジネス利権は膨大なものになる可能性があるからだ。外部プログラムであるSkypeを使ってしまうと、単にSkype社を利するだけのサービスになってしまうから自前のソフトフォンが必要となる。

 これが将来、GoogleとMicrosoftの両社がソフトフォンに進出するだろうと推測できる理由だ。実際にGoogleはVoIP技術者を募集しているし、MicrosoftはすでにMSN MessengerでSkypeよりはるかに早くソフトフォンを実現している。

 もしGoogleとMicrosoftの両社がSkypeのようなソフトフォンに進出した場合、携帯電話を含む電話会社や通信業界が受ける影響は、Skypeから受けるそれよりはるかに深刻になるだろう。

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