Skypeと無線ブロードバンドが及ぼす通信業界への影響(4/7 ページ)

» 2005年06月21日 21時00分 公開
[清成啓次,ITmedia]

 Skypeの成功に触発されてか、携帯電話への組み込みも視野に入れてか、Skype登場以後も数々の無料ソフトフォンがSkypeに挑戦してきた。しかしいずれもWindowsのみのサポートだったり、英語版のみの提供だったりと、Skypeを脅かすレベルに至っていない。一方でSkypeはすでにWindows/Macintosh/Linux/PocketPCプラットフォームを押さえ、22カ国言語をサポートし、さらには自作プログラムにSkypeを組み込むためのAPIも公開している。今からSkypeをキャッチアップするのは、MicrosoftがOSやブラウザそのものにSkypeのようなハイブリッドP2P電話でも標準添付しない限り難しいだろう。

 インターネットの場合、サービス開始時点での1年の遅れは、通常の業界における7年の遅れに匹敵すると言われている。このため、高速で普及しているサービスをオーバーテイクするのは非常に困難なのだ。

 それが分かっているSkypeは2005年2月、他社の追従を諦めさせるようなニュースリリースを行った。それがSkype携帯電話におけるMotorolaとの包括提携の発表である。今後、Motolora製携帯電話にはGSMやW-CDMAのほかに無線LANが標準搭載され、そこに最適化されたSkypeが搭載される計画だ。これにより無線LANモードでのSkype通話は完全に無料となる。

 Motorolaのこの計画はすでに台湾HTC社が世界中にODMで出荷しているWindowsMobile携帯(通称:BlueAngel)、例えば「i-mate PDA2K」「O2 XDAIIs」「Orange SPV M2000」「Qtek 9090」「Siemens SX66」などで実現されており、日本円で約8万円〜10万円という高額な端末ながら、恐るべき勢いで売れている。

 私も実際にSkype携帯電話「O2 XDAIIs」に、kzou氏が作成された「Skype for PocketPC 日本語化パッチ」をインストールして使っている。普通のPDAに「Skype for PocketPC」をインストールしたものとは異なり、エコーキャンセラーのサポートやONフック/OFFフックキーとの連動が実現しており、使い勝手は携帯電話そのものだ。

O2 XDAIIs O2 XDAIIsの端末。Xscale PXA263 400MHzを搭載し、Wi-FiやBluetoothのポートを備えている

 ただし、音声品質については初期バージョンということもあり、まだ一般の人が満足できるレベルとは言い難い。これはSkypeだけのせいではなく、無線LANの安定性、携帯電話としてのハードウェアスペックの向上を待たねばならないが、ともかく「Skype携帯電話」は”発売されてしまった”のだ。このことはぜひ記憶しておいてもらいたい。海外ではすでに当たり前のことであり、Skype携帯電話が利用できないのは「携帯電話鎖国」日本くらいである。

 Skype社では今後の携帯電話用OSとしてWindows Mobileだけでなく、Symbian OSやPalmOS、Linuxにも対応していくことを発表している。特にNOKIAを筆頭にインストールベースで圧倒的なシェアを誇るSymbianOS用Skypeは最優先で開発が進められている。ただ、2005年5月にはWindows Mobile 5.0が発表されたこともあり、今後Windows Mobileで動作するSkype携帯電話は最も便利なスマートフォンとして世界中で大ブレイクするだろう。

電話番号が役目を終える時

 現在、世界の電話網は「電話番号」をベースに構築されている。ほとんどの人は「え? 電話番号以外のものを使って電話する仕組みなんてあるの?」と思われるかもしれないが、実は2つ存在するのだ。

 一つはグラハムベルが電話を発明した頃のことである。当時はまだ、多くの人に電話がかけられる交換機は発明されていなかったため、電話は1対1でしか話せなかった。糸電話の世界である。「Mr. Watoson,come here I want you.」というグラハム・ベルの有名な言葉が発せられたとき、そこに電話番号は存在しなかった。

 その後、多くの人が互いに通話を行えるように電話番号とクロスバー交換機が発明され、交換手が手動で電話をつなぐようになった。その頃の電話機にはダイヤルボタンはなく、回転式のレバーを回して電話局の交換手を呼び出して「○○村の××さんをお願いします」という感じで電話をかけていたのだ。電話番号が二桁というような時代である。

 その後、電話の世界からは交換手が消え、膨大な数の電話番号と交換機による自動ダイアルの世界に入り、現在に至っている。

 そしてもう一つの「電話番号のない電話」とは、Skypeのようなソフトフォンである。実際にSkypeを使っている人ならば当たり前の感覚なのだが、Skypeでダイヤルするのは相手の名前(Skype nameと呼ぶ)に対してである。つまり、Skypeユーザー同士で通話するのに電話番号は不要なのだ。

 もちろんこれはSkype同士の通話での話であり、普通の電話にSkypeから電話する場合は電話番号を指定して電話することになる。

 ともあれ今後、電話の世界は「電話番号のある電話」と「電話番号ではなく個人の名前やメールアドレスで電話がかけられる電話」の2つが混在することになるだろう。後者には日本の総務省管轄の電話会社のような「国家」「役所」「電話会社」は関与しない……より正確に言えば、”関与できない”のだ。Skype nameやメールアドレスのように、世界中で一つしか存在しない文字列であれば電話番号よりも覚えやすいし、個人や会社で何個でも自由に取得できるから電話番号より便利になる。そんな時代が来てしまったのだ。

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