若干余談になってしまうが、作業に欠かせない道具といえば「人」に関連するグッズも重要であるので、いくつか挙げてみたい。
基本的にラックが設置されている場所というのは、機械にやさしい環境である。ところがこれがえてして人にはやさしくない。
まず、寒い。とにかく寒い。今話題(?)の「クールビズ」スタイルで行った日にはひどい目にあうこと請け合いである。
先に紹介した工具などはデータセンター側に用意されているものもあるだろうが、人間用の暖房グッズはほぼ間違いなく用意されていないので、少なくとも長袖の上着は持参しよう(筆者の会社は昔、そのためだけに作業用ジャンパーを購入した)。それでも寒い人もいると思われるので、インスタントカイロなどもこっそりポケットに忍ばせておくとよいかもしれない。
また、データセンターのフロア内は湿度も管理されていて、たいてい乾燥している。そのため喉が渇きやすいのだが、当然ながら中での飲み食いは禁止である。ラックが設置されている部屋を出れば自販機などもあるが、財布の中に小銭がないと飲み物も買えない。目薬や喉スプレー、ジュース購入用の小銭なんかも用意しておくと便利である。
あとは長時間の作業に備えて洗顔ペーパーとか、指をはさんだときの応急処置に使えるバンソウコウとか、携帯電話の充電ケーブルとか……挙げていけばきりがないのでこのへんでやめておく。
最後に、これは極端な例であるが、筆者が現場で切込隊長(?)をやっていたころは、一度データセンターに入ると2日や3日は出てこれない、などということもよくあった。
そうすると当然眠くなるのだが、このときには機器搬入用のダンボール箱によくお世話になったものである。床でじかに寝ると寒いので、ダンボールを敷いて寝ると若干ではあるが暖かい。ただ、空気はやっぱり冷たいままなので、体は当然冷える。
そんなところで寝ていると指先などは異様に冷たくなっているはずなのだが、なぜか夢の中で体が暖かく感じたりすることもある……これは要注意である。データセンターで凍死、なんていうのはかっこ悪いので、ぜひとも避けたい(ちなみに、現在はいろいろ規則が厳しくなっているので、ダンボールを敷いて寝てたら怒られるだろうから、けっして真似しないように)。
ここまで長々と書いてきたが、結局どういう視点でラックというものをとらえるべきかというと、それは「運用されるもの」である、ということである。
運用に入ったラックはリモートで動作状況を監視すると同時に、Eyes&Handsでの監視も行う。故障すれば機器交換もするし、利用者が増えれば機器やラックが増設される。ラックも立派なシステムの一部なのだ。
システムライフサイクルの中で設計や構築にかかる時間よりも、運用されている時間のほうがはるかに長い。事前のプランニングに失敗すると、運用されている間ずっとその失敗を引きずることになるかもしれない。結局それをカバーするのは人である。人が運用しやすいラックが作れるかどうかは、事前のプランニングにかかっているのだ。
ちょっと強引だがまとめてしまうと、本稿のテーマである「漢のラック」とは、ただ機器が詰まっている箱ではない。「いかにシンプルにオペレーションできるか」という思想が詰まっている箱なのではないかと、これをまとめながら感じた次第である。
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