ブラック・ジャックはロボット? 自律的な手術ロボットは必要か(2/3 ページ)

» 2005年11月08日 19時54分 公開
[丸山隆平,ITmedia]

医師を超える手術ロボット

 手術ロボットシステムで用いられている各技術も従来の内視鏡手術で用いられていたころと比較すると大きく進歩を遂げている。カメラの部分は、画像処理技術と組み合わせることで、3次元またはそれ以上の次元(3次元空間に投影)による立体視を可能とした。

 また、マニピュレータも手首が曲がらない構造だった従来の内視鏡手術用のものから、360度回転する自由度を得た。また、術者が手元を5ミリ動かすとロボットの手先は1ミリに縮小して伝わるなど、精度的にも人間の手の動作をしのぐものとなった。加えて、手の震えをマニピュレータ側で排除できるようになったことで、人間の手では作業できないような細い血管ですら容易に縫合可能となったのだ。

 「欧米では3000件以上の手術の実績がある。主に胆のう摘出など消化器系外科が中心だが、冠動脈のバイパス手術といった心臓外科でも行われている。日本では2000年3月に初めて行われ、2001年6月からは健康保険適用の認可申請に向けて、消化器外科などの手術で治験が始まっている」(慶應義塾大学医学部長北島政樹氏、2001年11月、NHK「きょうの健康」から)。

遠隔治療を実現する「ユビキタス・コンピューティング」

 見方を変えると「ロボット手術」は、遠隔治療の一環ともいえる。医師が患者のそばにいなくても、治療を行えるようになったからだ。これを可能にしているのが「いつでも、どこでも必要な情報にアクセスすることができる」、つまり「ユビキタス・コンピューティング技術」の応用である。

 米国の実例では、2001年9月、ニューヨークの外科医チームが「手術ロボット」を使って、6000キロ以上離れたフランスに住む68歳の女性の胆のう摘出手術に成功した。これほどの距離を隔てた手術に成功した例は、もちろん世界初だった。手術に必要なデータや映像は光ファイバー網(10Mbps)で伝送され、手術は約1時間で終わった。

 もちろん、ロボット手術システムにはまだまだ課題が残る。例えば、開腹手術と変わらない触感の再現や、臓器の細動が手術に影響を与えないようにすること、などである。こうした課題が存在するとはいえ、地域医療格差の解消、互いに離れた場所にいる医師たちによるチームワーク手術、災害時の医療など現代医療が抱えるさまざまな問題を解決し得るものとして大きな期待がかかっているのも事実なのだ。

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