“心”から人間を支えるロボットとなれるか?――アザラシ型ロボット「パロ」の秘密(4/5 ページ)

» 2005年11月18日 21時47分 公開
[中村文雄,ITmedia]

刺激情報のボトムアップによって内部状態が変化するパロ

 ペット飼育の経験がある人ほど、パロによるセラピー効果が高いことが実験データから判明しているが、そのことはパロがペット動物に近い反応をしていることの証明でもある。柴田氏は、「センサーからの情報がとても重要で、外界からの多くの刺激を組み合わせることが、ロボットの行動の多様化につながる」と外界からの刺激の重要さを強調する。

産業技術総合研究所の柴田崇徳主任研究員。パロの開発が評価されて2003年の「人間力大賞グランプリ」「内角総理大臣奨励賞」など数々の賞を受賞している

 パロには、人間の感情に匹敵する内部状態がある。同じ刺激を与えても内部状態によって反応が違い、それが“ペット動物らしい”というイメージにつながる。内部状態はあらかじめ設定された感情モデルで決まっているわけではない。パロのアルゴリズムは正式には公開されていないが、これまで公表されたキーワードから推定すると次のようになる。

 パロに入力される情報の種類、情報量は常に変化し続けている。それを利用すれば、感情モデルというトップダウンの手法でなく、環境情報をボトムアップすることによって内部状態を形成して、ペット動物のような「行動生成」ができる。

 パロと人間との相互作用は次のように行われる。人間がパロを触ると、多様なセンサーの情報からパロの内部状態を決まる。センサーからの情報は、その回数や強さなどによって「短期的な記憶」と「長期的な記憶」に分別されて蓄えられる。これらの蓄えられたデータによって内部状態が変化し、刺激に対する反応も変化する。反応が変化するとユーザーから与えられる刺激も変化して内部状態が変化する。この繰り返しによって、同じ刺激であってもパロの反応はそのたびに違う。このような相互作用が長期間にわたると、パロはある程度、ユーザーの好みに近づく。これらのアルゴリズムと設定は、1993年の“犬の尻尾による実験”から現在に至るまでの研究がベースになっている。そこにパロの最大の特徴である、“ペット動物らしい”反応の秘密がある。

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