“心”から人間を支えるロボットとなれるか?――アザラシ型ロボット「パロ」の秘密(5/5 ページ)

» 2005年11月18日 21時47分 公開
[中村文雄,ITmedia]
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認知症患者を“効率的”に癒すパロ

 重い認知症の患者がパロに接すると意識が戻るように正気を取り戻すことがよくある。その場に立ち会えば、その効果を実感できるが、科学的に実証する実験が何度も行われてきた。2005年5月に埼玉県の木村クリニックにて行われた実験では、認知症の早期診断用に開発された脳波診断システムによって、パロの使用前と使用後の脳波状態を比較した。パロと20分間触れあった後に認知症患者14名のうち7名に脳機能の改善が見られ、1人は健常者レベルまで回復した。この効果は、専門家が2時間付き添って行うアートセラピーの効果に匹敵するものだ。

 木村クリニックの木村伸院長は「興味を持ってパロに接するだけで、脳機能がこれほど回復するとは思わなかった」と驚きのコメントを残している。

木村クリニックでの実験風景(被験者は脳波計測のため頭にネットを被っている)

 柴田氏は、この効果を認知症のケア方法の一つである「回想法」に近いと説明する。

 「動物と接した経験のある人がパロを高く評価していることから、パロとの触れあいを通して、昔飼っていたペットのことを思い出し、そこから連想記憶を呼び起こすことが脳に良いのだと思う」(柴田氏)

 パロは認知症を治療することはできなくとも、病状の悪化を遅らせたり、健常者が認知症になることを防いだりできる可能性が高い。パロは、これから時間をかけて実績を積み上げて、それを証明することだろう。

2006年は、パロの本格的な海外進出が始まる年

 ロボットにもさまざまな種類があるが、今最も注目を浴びているのは「飽きないロボット」「感情のあるロボット」だろう。ソニーのエンタテイメントロボット「AIBO」の開発者も、人間を長時間飽きさせない機能の研究を、「インテリジェンス・モデル」という知能発達の基本モデルで進めている。

 パロは「人を飽きさせない」ということでは、実は当初から実績を残している。2000年に実施された筑波大学付属病院の実験でのエピソードを紹介しよう。実験が終了してから1年半後に、病院でパロと遊んだ患者の親が柴田氏に会いに来た。「あの子はパロを好きで、実験の後、白いモノを見ると『パロ』と呼んでいました。良い経験ができました」と感謝の言葉を伝えにきたのである。その患者は5歳で亡くなったが、親はパロのことに感謝して、その気持ちを柴田氏にわざわざ伝えに来たのだ。実験データではないが、十分にセラピーロボットとしての役割を果たしたといえる。

 パロは2003年8月から高齢者向け施設で継続して使用されており、2005年3月に市販されたパロも継続的に使用されているケースが多いという報告がある。今後、使用されているパロの追跡調査を継続し、セラピー効果の向上に役立てる方針だ。さまざまな条件で使用されているパロの状況から、認知病患者用、入院患者用、家庭用などさまざまな用途に対応したハードウェア、ソフトウェアを提案できる。将来、用途別のパロが発売される可能性は高いだろう。2006年にはパロの活躍の場が海外で一気に広がる可能性があるという。「世界で最も愛されているロボット」という実績で、パロがもう一度、ギネスに登録されることを期待したい。

 人間の感情を動かし、“心を癒す”という人間でさえ難しいことをパロは可能にしようとしている。逆に、ロボットだからこそできる、心の癒し方があるのだろう。「人間と共存するロボット」というパロの基本コンセプトについて考えると、将来、パロは“ゆりかごから墓場まで”一人の人間に寄り添って、その人を“心”から支え続けるコンパニオン・ロボットへと進化するのかもしれない。

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