“心”から人間を支えるロボットとなれるか?――アザラシ型ロボット「パロ」の秘密(1/5 ページ)

2002年に「Most Therapeutic Robot」としてギネスブックに登録されたアザラシ型ロボット「パロ」。現在、スウェーデン、イタリアなど世界各国の施設で使用されており、そのセラピー効果が注目を浴びている。パロのセラピー効果の秘密を探ると、そこには人間とロボットの新しい関係が見えてくる。

» 2005年11月18日 21時47分 公開
[中村文雄,ITmedia]

 パロがギネスブックに登録されたきっかけは、ロンドンの国立科学博物館で2002年に開催された「Gateway to the Future」という展示会だ。開催中、パロは来場者の人気を集め、英国の新聞「Daily Star」は「どうして英国政府は、このようなロボットの開発を推進しないのか?」と表現したという。こうしたパロの評判を聞いたギネスブックの担当者が、パロの実験データなどを審査して、「世界一のセラピー用ロボット」と認定した。

 パロの“産みの親”である産業技術総合研究所の柴田崇徳主任研究員は、「アニマルセラピーが認知されている欧米では、“セラピーのためのロボット”と紹介すると、すぐに使い方や効果を理解してくれた。スウェーデンやイタリアの病院関係者からは『早く国内で市販してほしい』と要請されています」と海外でのパロ人気を紹介する。

 海外メディアもパロに注目している。8カ所のデイサービスセンターにパロを導入した富山県南砺市は、2005年6月には米国のビジネス誌「Forbes」の高齢者ケアの特集に取り上げられた。2005年11月にはスウェーデンのテレビ局が番組制作のために同市を訪れている。その背景にはスウェーデン国立障害研究所がパロを介護機器として認定するために実証実験を開始したことがある。

2003年にスウェーデンの国立科学技術博物館で開催された「Robot Exhibition」に展示されたパロ

 パロの知的財産権は株式会社知能システムにライセンスされ、2005年3月から35万円という価格で同社から販売されている。現在、500体以上出荷されているが、購入者の約8割は個人で、デイサービスセンターなどの施設への導入はまだ少ない。その背景にはパロに介護保険が適用されて安価に購入できる日を待っている、という事情があるようだ。

 35万円という価格は高いという声もあるが、実はこの価格には開発経費が入っていない。柴田氏が、産業技術総合研究所の前身である通産省工業技術院機械技術研究所で「人間と共存するロボット」の研究を開始してから12年の歳月が経過しており、科学技術振興機構などからの研究費を加えると開発費は総計10億円を超える。その開発費を価格に反映するとパロはおよそ300万円という価格になってしまう。国家のバックアップがあったからこそ、低価格を実現できたのだ。

2005年3月に発売されたメンタルコミットロボット「パロ」。35万円(税込)、医療向けのメンテナンスパックは42万円(税込)

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