新興市場攻略に向けたMicrosoftの苦悩(2/5 ページ)

» 2006年03月10日 07時00分 公開
[Paul DeGroot,Directions on Microsoft]
Directions on Microsoft 日本語版

現行の戦略

 新興市場に対するMicrosoftの戦略は、収益の拡大だけでなく、企業イメージの向上、海賊版の放逐、製品のカスタム化、オープンソースソフトウェアとの競合にも力点を置いている。

企業イメージの向上
 Microsoftは新興市場の学校やコミュニティ施設に対して、Partners in LearningやUnlimited Potentialなどのプログラムを通して多大な寄付を行うとともに、各種ハードウェア、ソフトウェアの無償提供を行っている。例えば2006年1月、Bill Gates会長は欧州の政府リーダーズフォーラムで、地域のテクノロジーセンターに向けたUnlimited Potentialプロジェクトで、新たに2500万ドルを追加提供することを明らかにした。既に全世界3万6000のテクノロジーセンターが資金の援助を受けており、そのほとんどは非営利団体によって運営されている。

 Microsoftはまた、全世界90カ所にあるMicrosoft Innovation Centers(MIC)のスポンサーでもある。MICは検証、開発ラボであると同時にトレーニング機関でもあり、多くの新興市場で優れたコンピュータ教育の場を提供している。これらのMICでは、.NET開発フレームワークなど、Microsoftの製品や技術のトレーニングを行い、その地域におけるMicrosoftソリューションの技術者やサポート要員の育成に力を入れている。

海賊版の放逐
 発展途上国では政府系の組織でもソフトウェアの不正使用が横行している。Microsoftでは、もしこれらの国々で正規品の利用が増えれば、もっと多くの収益が期待できるはずだとして、同社は各国でソフトウェアの正規利用を促し、不正や海賊行為の摘発、罰則強化、知的財産権の保護に向けた法整備などの面で、積極的な取り組みを進めている。

製品のカスタム化
 Microsoftの好む製品アプローチは、あまり大きな修正を加えずに世界中で利用できるソフトウェアを大量生産することだ。しかし同社は最近、一部市場向けに特別にカスタマイズした製品の提供を開始した。よく知られているのは、Windows XP Starter Editionだ。このバージョンは価格を抑え、ローカルネットワーク機能などを省き、同時に3つのアプリケーションまでしか実行できないなどの制限を加えたOEM向け省機能版だ。また同社はタイで安価なコンピュータの供給を目指す政府の方針に基づき、WindowsとOfficeの特殊な低価格バージョンも販売している。

 Microsoftはさらにローカル言語プログラム制度を設け、Language Interface Pack(LIP)の開発を促進している。LIPを利用すれば、Microsoftによるローカライズとは別に、Windows XPとOfficeの特殊言語バージョンを開発することが可能だ。世界には6000もの言語があるが、ビジネスで一般に利用されている言語はほんの一部に過ぎない。それらはMicrosoftのビジネスオリエンテッドなソフトウェアモデルに最適だが、その他の言語も数百万の人々によって話されている(エチオピアでは6000万人が会話にアムハラ語を用いている)。ローカライズを支援する仕組みがなければ、Microsoftの製品もこうしたグループに浸透することはできない。LIPはまた、ソースコードにアクセスしてローカルバージョンを簡単に作成できるオープンソースに対抗するものにもなる。

競合製品の排除
 多くの国々の経済レベルと比較して、Microsoft製品は高価であるため、それらの市場では無償あるいはオープンソースソフトウェアがより魅力的なものとなっている。同社は各国政府へのロビー活動で、その国の法律や規制がMicrosoftへの逆風(例えばオープンソース製品の利用を義務付けるなど)にならないように働きかけるとともに、長期的に見ればオープンソース製品よりもコスト面で有利であることを主張するキャンペーンを展開している。オープンソース製品のライセンスはMicrosoft製品より安いが、責任ある開発、トレーニング、導入、既存システムとの統合、あるいはオープンソースのソリューションベンダーに提供できないサービスなどを考えれば、Microsoftが必ずしも不利というわけではない。

政府、教育部門に焦点

 大きな消費者市場と堅牢な大企業および中堅企業市場を持つ先進国と異なり、新興経済地域は最新技術にアクセスできる一握りのエリートと、政府さえコントロールできるほど巨大な力を持った少数の大企業によって形成されることが多い。そのためこうした市場におけるMicrosoftのマーケティングも、影響力のある一部エリート、一般的には政府関係者と教育市場に向かうことになる。

 同社はこうした国々の政府と教育部門にさまざまな便宜を図っている。例えば、政府職員向けのホームユースライセンスや学生向けの大幅なディスカウント価格などだ(インドにおけるMicrosoft Student Selectプログラムでは、フルバージョンのOfficeをわずか30ドルで提供している)。またGovernment Cooperation Agreementでは、安価な価格設定を交換条件に、政府(通常は全省庁)によるMicrosoft製品の全面サポートを得ている。

 さらに同社は、各国政府の技術投資についても監視し、Microsoftソリューションに対して明らかな誤解を含む提案などにはロビー活動で反対し、政府系プロジェクトへの参加を目指すパートナーの支援に力を入れている。

Copyright(C) 2007, Redmond Communications Inc. and Mediaselect Inc. All right reserved. No part of this magazine may be reproduced, stored in a retrieval system, or transmitted in any form or by any means without prior written permission. ISSN 1077-4394. Redmond Communications Inc. is an independent publisher and is in no way affiliated with or endorsed by Microsoft Corporation. Directions on Microsoft reviews and analyzes industry news based on information obtained from sources generally available to the public and from industry contacts. While we consider these sources to be reliable, we cannot guarantee their accuracy. Readers assume full responsibility for any use made of the information contained herein. Throughout this magazine, trademark names are used. Rather than place a trademark symbol at every occurrence, we hereby state that we are using the names only in an editorial fashion with no intention of infringement of the trademark.

注目のテーマ