新興市場攻略に向けたMicrosoftの苦悩(4/5 ページ)

» 2006年03月10日 07時00分 公開
[Paul DeGroot,Directions on Microsoft]
Directions on Microsoft 日本語版

パートナーと販売チャネルへのメリットを創出

 Microsoftは製品の販売や展開、保守をパートナーに大きく依存する。しかし新興市場では、VARやインテグレータといった先進国で重要な役割を担う業者がまだ十分育っていない。

 Microsoftは少数の既存チャネルと緊密に連携することで、この問題に対処している。これまで同社は各国政府と共同でWindows Starter Editionの販売を促進したり、現地の電気通信事業者と提携してハードウェアやソフトウェアにインターネットアクセスをバンドルする(メキシコなど)といった取り組みを進めてきた。

 ところが、こうしたソリューションはしばしばMicrosoftの利益率を大幅に削ってしまう。実際、タイなどでは大幅な利益率の低下に悩まされ、フリーソフトウェアと価格競争する危険性が浮き彫りになった。結局、Windows Starter Editionも、それほど目だった成果はもたらさなかった。今後、MIT Media LabのNicholas Negroponte氏が提唱するLinuxベースの「100ドルPC」など、安価な競合製品からの挑戦を退けることは難しいかもしれない。

 Microsoftは100ドルPCの対抗策として、一般的なテレビモニタと安価なキーボードを搭載し、基本的なコンピューティングリソースを提供するパワフルな携帯電話という新しいコンセプトを打ち出した。このアプローチは新興市場にアピールするだろうが、別の面でMicrosoftのセールスを圧迫するかもしれない。また新興市場(あるいは先進国市場)に、OfficeなどのMicrosoftアプリケーションを実行できる高性能で安価な携帯電話が登場するまでには、まだまだ時間がかかるだろう。

 一方、Microsoftは現行のパートナー開発プログラムやトレーニングセンターを活用して、販売チャネルを育てることが可能だ。将来、Microsoft製品で教育を受けたIT専門家が増えるという形で、長期的な利益を得ることができるだろう。

 Microsoftのパートナーは現在、同社のソフトウェアを販売しても、そこからほとんど利益を得ていない。販売価格にマージンはほとんどなく、販売に関連するサービスやトレーニングで利益を上げているのが現状だ。Microsoftは特定の地域のパートナーにもっと直接的なインセンティブ、例えばコミッションやファイナンスといったメリットを用意すべきだろう。特に高度な導入サービスから利益を得ることができない地域やクレジット制度が未整備な地域などには、そうした施策が有効だ。ファイナンスで販売をサポートすれば、価格を高く維持しながら、小さな企業にも売り込むことが可能になる。

 地域によっては小売店を経由して消費者へ直接コンタクトする必要があるかもしれない。先進国市場ではあまり見られない手法だが、現在インドにおいてテスト的に行われている。この手法を用いると、少数の専門販売スタッフで大きな効果を挙げることができ、購買者に直接ファイナンスを提供する機会も増える。

価格体系、大量販売、ライセンス体系の改革

 Microsoftはこれまで、全世界でほぼ同一の価格体系を維持してきた。ソフトウェアの出荷はそれほどコストがかからないこともあるが、同一の製品を市場ごとに異なる価格で販売すると、安く買える市場で製品を仕入れ、別の市場で高く売るブローカーが現れ、グレーマーケットが成立する原因になるからだ。そうしたグレーマーケットを避けるためにバイナリを変更すれば、在庫管理やローカライゼーション、パッチ、グローバルに展開する企業顧客とのライセンス契約が複雑になる。

 とはいえ現行価格ポリシーは、多くの新興市場でMicrosoft製品の普及を阻む抑止力となっている。最も不利益をこうむる製品は、Officeだ。Windowsより高価格であるだけでなく、Officeと高度な互換性があり、ほぼ同等の機能を提供しながら、新興市場にあふれる旧式のハードウェアでも十分実行できる無料の競合製品、OpenOfficeがあるからだ。Microsoftは新興市場で低価格の代替製品、Worksなどの販売に力を入れているが、たとえ無償で配布しても形勢が逆転することはないだろう。OpenOfficeは無料だが、Worksよりも高性能で、Officeとの互換性もはるかに高い。

 ボリュームライセンシングで新興市場をある程度カバーすることは可能だろう。低価格バージョンの製品を大量購入ユーザーに限定すれば、政府や教育機関のエリートたちにアピールし、フリーソフトウェアの追撃をかわすことができるかもしれない。ただし、それでも市場の90パーセント以上はフリーソフトウェアに譲ることになるだろう。

 製品価格を抑えることに加え、Microsoftはライセンシングのルールを再検討する必要がある。共有コンピュータ、キオスク、アプリケーションポータル、ターミナルとして機能する小型軽量クライアントなどは、希少なリソースを大勢で利用するためのポピュラーな方法だ。しかしMicrosoftのライセンシングルールでは、Terminal Servicesクライアントなどが絡む場合など、少ないライセンスで多くのユーザーをプールすることはできない仕組みになっている。高価なExternal Connectors LicenseやClient Access Licenseは、複数のMicrosoftサーバリソースにまたがる大規模なパブリッククライアントが前提だ。こうしたルールは大企業が数千台ものWindowsデスクトップを数台のサーバにリプレースすることがないように考えられたものだが、多くの新興市場のユーザーにとってはMicrosoft製品の利用を難しくする高い敷居になっている。

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