新興市場攻略に向けたMicrosoftの苦悩(3/5 ページ)

» 2006年03月10日 07時00分 公開
[Paul DeGroot,Directions on Microsoft]
Directions on Microsoft 日本語版

戦略上のギャップ

 ところが、こうした現行の方針は必ずしも新興市場におけるMicrosoftのプレゼンスを最大化しているとはいえない。なぜなら最大の参入障壁を解決していないからだ。それはMicrosoftのワールドワイドな価格ポリシーが、同社の製品を新興市場の中堅クラスの消費者や小企業から遠ざけているという事実だ。世界人口の85パーセントは1人あたりの年間GNPが1万ドル以下の国(米国は約4万ドル)に住み、50パーセントは1日2ドル以下で暮らしている。

 またMicrosoftは他のIT企業と同様、先進国とまったく異なる技術導入カーブの問題にも苦しんでいる。ほとんどの新興経済地域では、コンピュータより携帯電話のほうが普及率は高い。例えば、ハンガリーの携帯電話の普及率は93パーセントに達しているが、この数字はコンピュータ所有率の約5倍だ。こうした状況は識字率の低い国で何年も前から見られた(もっともハンガリーの識字率は99パーセントだが)。米国などでは、コンピュータの所有率が携帯電話の所有率を上回っている。

 Microsoftの製品ロードマップもまた、新興市場の障壁を高めている原因の1つだ。WindowsやOfficeの新バージョンが登場するたびにハードウェアに対する要求は高まり、先進国から流れた中古PCが多く稼動する新興経済地域のユーザーにとって、ますます不利な状況になっている。実際、現在先進国で利用されているコンピュータでさえ、次期バージョンのVistaをフル機能で実行できるものは少ない。おそらく新興市場にVistaが広く普及するころには、Microsoftはさらにハードウェアのハードルを高め、先進国のユーザーにはその"古い"OSからの移行を促しているに違いない。

 正規品の購入を求め、ソフトの不正使用を糾弾し、WTO加盟国に知的所有権の保護を訴えるMicrosoftの努力は、一方で同社の逆風にもなっている。ユーザーにとって手っ取り早く、かつ安価に違法性を解消する方法は、無償のオープンソース・ソリューションを利用することであるからだ。BRIC各国も政府助成プログラムでLinuxやオープンソース・ソリューションの普及に力を入れており、例えばブラジルは政府省庁で利用するコンピュータの80パーセントをLinuxに移行することを目標に掲げている。

ギャップを解消する方策

 こうしたギャップを解消するために、Microsoftはワールドワイドで展開しているビジネスになんらかの修正を加える必要があるだろう。そうした修正には次のようなものが考えられる。

  • 製品の設計、価格、販売チャネル等に関して、子会社にある程度の権限を与える組織改革。
  • 新興市場におけるパートナーや販売チャネルとの新しい関係の構築。
  • 新興市場で障害になっている量販プログラム、ライセンシングルールの見直し。
  • 製品展開の柔軟性を高めるための製品ラインの変更。

新興市場向けの組織改革

 Microsoftの現行組織は、先進国のように多国籍企業や中堅、地元企業が混在する活動的な競争市場では有効に機能する。しかし多くの新興経済地域では若干事情が異なり、近代的なコンピュータシステムを導入しているのは政府と一部の大規模な独占企業だけだ。インフラはどれも脆弱で、販売チャネルや流通システムは未整備であり、多様な言語と文化が混在する社会は、安価な大量生産ソフトの提供を困難なものにしている。またISVパートナーの多くは規模が小さく、資本力もない。

 ワシントン州レドモンドからこうした新興市場に効率的に対応するのは無理がある。Microsoftは新興市場でのプレゼンスを高めつつあるが、いずれそうした地域のスタッフが独自に判断できるように、さまざまな権限を委譲しなければならない。

 強力なローカルチームは、その国の政府や電気通信業者などの有力IT企業と良好な関係を構築するために不可欠だ。今日、Microsoftの価格およびライセンスポリシーは、レドモンドの本社によってコントロールされ、地元の販売チームはそれらの変更に関して限定的な裁量権しか持たない。しかしオープンソースに対抗するためには、地域子会社が魅力的なソフトウェア・ライセンスの価格体系に、サービスやファイナンス、トレーニング、その他、オープンソース製品の経済性を凌駕するメリットを組み合わせ、市場ニーズに即応できる体制を構築しなければならない。

 さらに地域子会社は本社のリソースを活用して、国際的な資金をベースに国民の生活水準を引き上げるためのプロジェクトに取り組む政府やNGOを支援することで、間接的にMicrosoftに利益をもたらすことが可能になる。こうした戦略は重要だ。安定した政府は世界銀行など、国際機関から豊富な資金やローンを得ることができる。そうした資金によって進められる国家プロジェクトやインフラ整備で国民の生活水準が向上すれば、ITに対する需要は高まり、所得も増加する。新興経済地域で、これ以上確実にMicrosoftに利益をもたらすものはないだろう。

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