Debian、GNU Free Documentation Licenseについて決議(2/3 ページ)

» 2006年03月17日 11時02分 公開
[Bruce-Byfield,japan.linux.com]
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投票のメカニズム

 Debian憲章では、プロジェクトの一般決議を提案する権利は、すべての開発者に与えられている。ただし実際の投票にかけるには、権利を有するほかの開発者による賛同を得なければならない。これは比率ではなく開発者の実数で数えられ、現行の開発者数の平方根の半分あるいは5名のうち少ない方と定められている。アナウンスされた決議に対しては、同様の手続きによって修正を加えることもできる。その場合の修正条項は、オリジナルの決議の提案者およびすべての賛成者が承認した場合に受理され、修正内容を取り込む形で決議が改訂される。それ以外の場合、修正条項は個別の投票にかける必要がある。

 今回のケースでは、Debianプロジェクトリーダーの候補者の1人であり、Debianコア・インストレーションに採用されている10数個のパッケージをメンテナーとして管理するアンソニー・タウンズ氏がオリジナルの決議を作成していたが、それはGFDLを全面的に拒絶する内容であった。

 タウンズ氏によるオリジナルの決議に対する最初の修正は、KDEパッケージの大部分を管理するメンテナーのアデオダトス・シーモ氏により行われた。シーモ氏はdebian-privateのメーリングリストで意見を募った後、GFDLドキュメントであっても不変セクションを持たないものはフリーな存在と見なすべきだ、と提案した。同氏の見解によると、たしかにDebianメンテナーの大部分は不変セクションの存在には反対していたが、そのほかについての反対意見には「かなりの温度差があった」とのことだ。そうした状況下では、全面的な拒絶というのも無理な話である。またシーモ氏はFSFのメンバーの1人として、「コミュニティーのほかのメンバーたち(と言っても私の仲間なんだけどね)が巻き起こした反対運動というのは、あちら側のライセンスの一部はこちら側の思惑と衝突していて不愉快だってことを声高に叫びたいだけのもので、何か大きな間違いをしでかしているように私には思えたんだ……、何か一種の裏切り行為なんじゃないかってね」と発言している。投票の結果、シーモ氏の提案は修正条項Aとして採用された。

 修正条項Bを提案したのは、キーボード・マッピングやX Window System用フォントおよびDebianインストーラーのパーティショナーに関係する多数のパッケージを管理する、アントン・ジノビエフ氏であった。ほかのDebianメンバーの例に漏れず、ジノビエフ氏もDebianリポジトリにnon-freeセクションが存在することに不満を感じていた反面、パッケージ群をメイン・セクションに収めるという要請については、よりいっそうの制限を加えることになりFSFの思惑を超えてしまうのではないか、という危惧も抱いていた。

 シーモ氏がそうであったように、ジノビエフ氏が懸念していたのは、悪化する一方のDebianとFSFとの対立関係であった。そして何か強力な方策が必要であると感じた同氏は、修正案としてGFDLのマテリアルはすべてフリーであると宣言することを提案し、リチャード・ストールマン氏を始めとするFSFのほかのメンバーとの間で宣言文に関する相談を行った。

 これらの修正条項に関する宣言文は、それらの理由とあわせて一般決議に持ち込まれ、GFDLをどう見なすかに関する3つの選択肢を投票者に対して提示した。そしてスリバスタバ氏は、Debianの投票システムに定められた要件(後記を参照)に則して、第4の選択肢を追加した。それはよりいっそうの討論を行うというもので、言い方を変えれば、問題を現状のまま据え置きしておくというデフォルト・オプションである。

 今回の投票の準備を手配して、投票の仕方を説明し、取るべき姿勢に対する複数の意見を簡潔な文章にまとめたのも、スリバスタバ氏である。また同氏は、GFDL をフリーと見なすには、Debian憲章ないし同基本文書、Debian社会契約およびDFSGを変更する以外にないため、この修正条項Bはほかの選択肢に対して3対1の多数票を得る必要があるものと定めた。

 こうしたスリバスタバ氏の定めた投票方式に対しては、今も批判意見がくすぶり続けている。またジノビエフ氏に至っては、今回のプロセスには“欠陥”があると見なしているが、それは、修正条項Bは基本文書の変更を別段必要とするものではなく、単なる解釈上の合意事項として解決できると同氏は考えたからである。これに対してスリバスタバ氏は、同氏が投票を準備している段階で、ほかの開発者たちからの提案を募っていた点を指摘している。いずれにせよDebian憲章では、そのセクションA.2にて記載する文言の決定権、同じくセクションA.3にて手続きの決定権が同会書記に与えられると保障している。スリバスタバ氏の説明によると、同氏が当時検討した主要な点は、投票に用いる文言はオリジナルの決議および修正条項と合致しているか、「投票の目的が理解できる十分な明快性を備えているか」、そして基本文書に反していないか、ということであったという。

 投票は2006年2月26日から3月11日にかけて実施された。投票者は電子メールにより投票を提出したが、その際には、今回の投票への参加および専用に作成された暗号化鍵の使用を呼びかけたスリバスタバ氏からの電子メールにある関連セクションをコピー&ペーストするという手続きが取られた。今回はDebianの役職の選挙ではなかったため、投票の様子は秘匿されていない。修正条項Aが可決されたとの速報がdebian-voteメーリングリストにポストされたのは、3月11日の深夜すこし過ぎである。同時に、投票結果の詳細投票参加者のリスト、およびDebianの複雑な投票システムでの計算に用いた集計シートなども掲載された(概要は補足を参照)。なおよりいっそうの公正さを開票結果に求めたければ、任意のDebian開発者による監査請求をすることもできるという。

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