多くの日本版SOX法の施行などがERP導入の契機になると騒ぎ立てているが、中堅・中小企業の多くはそれを「売り手側のカラ騒ぎ」と見ているのが本音だ。3つのポイントを挙げ、ERP導入を成功させるための方法を考える。
オンラインムック強い中堅企業のIT化シナリオ。第1回、第2回に続く最終回。
伊嶋 謙二(ノーク・リサーチ代表)
前回のERPベンダー競合図に見られるように、中堅・中小企業市場(SMB)を取り巻くERPベンダーの数は増加傾向にあり、質的にも多様性を帯びてきた。最終回となる今回は、こうした状況でSMBがERPパッケージを選定、導入する上での幾つかのポイントを指摘していく。
メディアでは現在、2008年に施行が予定されている日本版SOX法に対応するための内部統制の強化や、いわゆる団塊の世代が一斉に退職する「2007年問題」に端を発するレガシーシステムからERPへのリプレースの必要性などが騒がれている。だが、どんなケースにせよ、企業が実際にERP導入を検討する際には明確な目的意識を持つことが重要である。
ここで、ERPの選定や導入に関するポイントを3点に絞って解説していく。
「実際にERPを導入したが、使い勝手が悪く、業務の効率が逆に悪化した」という声が社員から聞かれるようでは本末転倒だ。第1回で、現在のSMB向けERP市場ではオフコンのリプレース需要が残存していることを述べた。
ノーク・リサーチが昨年行ったSMBのERP導入実態調査(調査期間:2005年2月〜4月、調査対象:全国の年商5億円以上500億円未満の民間中堅・中小企業約1万社、有効回収票:885件)からも明らかである。
基幹システムの構成についての回答で最も多かったのが「オフコン、メインフレームを使ったシステム」で46.6%となっている。傾向として、SMBはオフコンやメインフレームといった自社の業務体系に合わせてフルカスタマイズしたシステムを使い慣れているのは確かである。
ということはつまり、これらのシステムを刷新する際には、ERPパッケージ導入によって自社の業務体系をそのERPに合わせるのか、それとも、ERPを自社の業務体系に適合するようにカスタマイズするのかを決定しなければならないということだ。
ここで、経営者はIT導入をIT部門に任せきりにし、導入決定の判を押すだけの存在になってしまってはいないだろうか?
同調査によると、ERP導入における「パッケージの選定」「ベンダーの選定」「導入決定」という3つのフェーズにおいて、パッケージの選定、ベンダーの選定には主にIT部門の責任者に意思決定権が与えられており、社長は導入決定のみにかかわるケースが多いことが分かった。
ERPの導入コストは、カスタマイズの範囲によって大きく違ってくる。自社の業務にERP側を合わせるような大きなカスタマイズをすれば、それに伴いコストが発生する。要件定義について関係者を集めてじっくりと議論する必要性も出てくるだろう。また、カスタマイズを最小限に抑え、全体的にある程度ERPに自社の業務を合わせる方向で見直しを図ったとしても、その妥当性について全社規模で十分に検討する必要がある。いずれにせよ、経営者が「判を押すだけ」で解決するほど簡単なものではない。
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