「放送と通信の融合」の役割担う携帯電話Interop Tokyo 2006

KDDI副社長の伊藤氏によるキーノートスピーチでは、放送と通信の融合における課題、同社の役割について語られた。

» 2006年06月09日 15時02分 公開
[ITmedia]

 携帯電話からインターネットを使う人数がおおよそ330万人近くいる現在、今後どのような役割が携帯電話に求められるのだろうか。「Interop Tokyo 2006」最終日は、KDDI代表取締執行役員副社長の伊藤泰彦氏による「ブロードバンド携帯とそのIP化への課題」と題した基調講演が行われ、KDDIが目指す未来が語られた。

KDDI代表取締執行役員副社長の伊藤泰彦氏

 伊藤氏は現代のキーワードに「二極化」という言葉を選んだ。これは、インターネットを使える人と使えない人といった格差ではなく、サービスに対するユーザーニーズが二極化したという意味だ。例えば、最近の携帯電話はカメラやラジオ、テレビ、財布などの高機能を搭載している。「特に、地上波デジタル放送対応端末の売り上げが好調で、携帯電話で映像を見ることに対するアレルギーが消え始めていると感じた」と伊藤氏は述べた。その一方で、家庭では走査線4000本以上の高画質テレビが求められる傾向にある。

 「つまり、家庭では高画質の画像を見て、携帯電話では手軽に映像を見たいという、ユーザーのニーズが二極化したということ」(伊藤氏)。

 こうしたニーズを支えるのが、インターネットである。伊藤氏は、「これまでは通信インフラがインターネットを支えていたが、今はインターネットが通信インフラを支えている。インターネットにつながるために、世界各国のキャリアは電話網をIP化する方向で動いている」と背景を説明した。KDDIも、2008年3月期末までに固定電話網をオールIP化するべく、共通バックボーンのGC(群局)リングとCDN(コンテンツ配信ネットワーク)を拡張し、メタルプラスやひかりoneなどのサービスで顧客の直収化を進めている。

 このような固定電話と通信の融合を「FMC(Fixed Mobile Convergence)」と呼ぶが、伊藤氏は「FMCというよりも、ブロードバンドのBを加えた『FMBC』とする方がこれからの展開にふさわしい」とコメントし、固定網とモバイル網を統合して、必要に応じたインフラを提供する同社の構想「ウルトラ3G」への意欲を示した。

放送と通信の融合における課題

 しかし、ブロードバンドと通信を融合するといっても、これがなかなか難しい。中でも、放送という映像コンテンツと通信を融合するには、いくつかの課題がある。

 すでにブロードバンド回線でのVoD提供やGyaOなどの無料ネットテレビの普及、ポッドキャスティングなど、放送と通信が連携するサービスは提供されている。2006年6月7日、文化審議会法制度問題小委員会は「IPマルチキャスト放送で地上波やBSの番組を流す場合に限り、著作権の扱いはケーブルテレビと同様にする。なお、過去番組については事前に許諾が必要」という報告書案を発表しており、融合の促進剤として効果が期待される。

 その意味では、ブロードバンドを流れる放送を通信と連携させることは実現しているのだが、そのトラフィックをそのまま携帯電話の通信網に流すのは厳しいだろう。伊藤氏は、ある地方拠点都市におけるインターネット接続のアプリケーション別トラフィック状況のグラフを指し、「インターネットにおける8割近くのトラフィックはP2P通信で、1割前後の通常トラフィックは圧迫される形になっている」と現状を説明した。KDDIは携帯電話への通信量において、ユーザーごとの体感速度は現行システムで500Kbps程度、WiMAXで6Mbps程度と予測しており、それを実現するネットワーク作りを目指しているが、それはあくまでも通常トラフィックに対する予測だ。増加するP2Pトラフィックへの対策は、「KDDIなどのキャリアだけでなく、ISPといったネットワーク側の協力なくして得られない」と訴えた。

インターネットのトラフィックの傾向

 こうしたネットワークトラフィックの問題は、ユーザーへ提供するサービスのクオリティに関わるだけではない。これまでの回線交換ネットワークでは従量課金制度を採用しており、容量に応じたシステムコストが必要だったものの、規模が大きくなれば単価は低下するため、それなりの収支があった。しかし、IP系ネットワークの場合はサービス品目ごとの価格差が小さく、サービス品目の速度あたりの収入が低下する。だが、バックボーンの回線コストは一定であるため、ある時点で価格割れが起こってしまう。「P2Pのような通信が帯域を圧迫してしまうと、キャリアが提供している一般サービスを十分に提供できない可能性がある。収支面で非常に大きな問題だ」と伊藤氏は指摘した。

 そうした意味も含め、伊藤氏は下り38.7Mbps、上り12.9Mbpsを実現するWiMAXなどのワイヤレスブロードバンドに期待しているという。IP-TVなどの映像を提供するのに十分なばかりでなく、ビットあたりの単価を抑える仕組みも構築できるからだ。「FMBCが促進し、ワイヤレスブロードバンドが構築されたとき、PC化された携帯電話はさらなる躍進を果たす」として、伊藤氏は講演を終えた。

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