世界最大のスポーツイベント、FIFAワールドカップドイツ大会では熱戦が続いている。その円滑な大会運営を支えているネットワークインフラの様子を取材した。
6月9日のドイツ-コスタリカ戦で幕を開け、約1カ月に渡って熱戦が繰り広げられる2006 FIFAワールドカップドイツ大会は、世界最大のスポーツイベントだ。今大会は、全世界で約320億人もの人々がテレビを通じてその模様を見守り、FIFAのWebサイトには約20億ものアクセスが発生すると予想されている。
このように世界中から注目を浴びるだけに、「大会のさまざまな情報や映像の伝達、配信に用いられるコミュニケーションインフラには、非常に高い信頼性とパフォーマンスが求められる」と、FIFAのCIO、マイク・ケリー氏は述べている。
2002年の日韓ワールドカップに続きFIFAのオフィシャルパートナーとなった米Avayaでは、Deutsche Telekomと共同で、ドイツ大会のネットワークインフラを構築、運用している。
ネットワークは、ベルリン、ミュンヘンをはじめドイツの12都市に散らばる12のスタジアムと大会関係者、選手らが宿泊するホテルに加え、駅や空港といった移動時のポイントなど70カ所を結ぶ大規模なもので、大会関係者や選手、ジャーナリストらのコミュニケーションを支援する。
このインフラはデータだけでなく音声も統合した「Converged Network」だ。IPテレフォニーを導入するのは今大会が2回目。ただし、日韓ワールドカップでは一部アナログPBXが導入されていたが、今回はフルIP-PBX化された。しかも「前回はISDNなど、日本と韓国で利用されている別々の通信方式を組み入れる必要があった。しかし今回はすべてIPで統一されている」(AvayaでFIFA World Cupプログラムを率いるアンドレア・リナーバーガー氏)。
音声/データの統合ネットワークには、「インフラを1つに集約でき、管理の手間が省けるというメリットに加え、ドイツ国内、あるいは母国との海外通話の電話代を節約できるという利点もある」(ケリー氏)。また、1つのコンタクトリストからオフィスの電話と携帯電話、メールボックスなど複数のコミュニケーション手段の中から最適なものを選んで接続できるという統合ネットワークならではの使い方も可能という。
Avayaによると、ネットワークは米Extreme Networksのコア向けスイッチ「Black Diamond 8810」38台と、「Avaya C360」をはじめとするAvayaのエッジスイッチ1000台以上で構成されている。PC接続用に提供されるポートは約2万。さらに、AvayaのSIPサーバと「Avaya S8710 Media Server」および「G650 Media Gateway」を通じて4500台以上のIP電話機が接続されるほか、ピッチなどで利用できる無線LANアクセスポイント、656台が用意される。
同じくFIFAのオフィシャルパートナーであるYahoo!では、メディアや視聴者向けにリアルタイム速報を提供するが、こうした情報配信にもこのネットワークが利用される。さらに、ID発行やRFIDを組み入れたチケット情報の確認といった大会運営アプリケーションのインフラとしても活用される。
ワールドカップを支えるネットワークと企業ネットワークの共通点は、「高い信頼性とパフォーマンス、セキュリティが求められる」ということ。しかし、その規模やレベルとなると話が違ってくる。
繰り返しになるが、ワールドカップには世界中の目が注がれている。それだけに、万一ネットワークに障害が発生し、試合情報などが伝わらない、などという事態でもあれば世界中の人に影響が及ぶことになる。
そこでFIFAとAvayaでは、2年にわたり準備を積み重ねてきた。フランクフルトにテストラボを設置し、相互接続性の確認に始まり、負荷テストや冗長性確認、アプリケーションも含めたテストを約4000回繰り返したという。
これにより「あらゆるシチュエーションに対応できるようにした」(ケリー氏)。目標のアベイラビリティは99.99%。ただしAvayaによると「前回の日韓ワールドカップでは99.999%を達成した実績がある」といい、今回もその水準を目指す。
アベイラビリティの確保に関しては、ネットワークのあらゆるポイントでの冗長化にも注意を払ったという。
例えば、ITコマンドセンター(ITC)にはネットワークの中核となる機器が設置されているが、まずラック単位でこれを冗長化。さらに、ITCの敷地内に同じ機器群をもう1セット配置し、拠点内で冗長化しているほか、別拠点にも機器を用意し三重に冗長化している。もちろんスタジアム内でも機器の冗長化を図っているほか、仮にWAN回線に障害が起こって外との通信が行えなくなっても、少なくともスタジアム内での運用は継続できる仕組みとした。
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