「あらゆる災害に備えた完璧な対策」なんて無理ディザスタリカバリで強い企業を作る(2/2 ページ)

» 2006年08月11日 12時20分 公開
[渡邉利和,ITmedia]
前のページへ 1|2       

 完璧な対策を目指してしまうとあまりに負担が大きくなりすぎるので、ある程度の許容度を持たせ、可能な限り被害を軽減し、可能な限り迅速に復旧する、という次善のレベルの対策を講じることを検討するのがよいだろう。このためには、過去の災害や実際の被害の実例を学ぶことが大いに役立つはずだ。

 それでも、あらかじめあらゆる事態を想定しつくしておくことは不可能だろう。

 ここで有効だと思われる対策は、泥臭い話ではあるが「避難訓練」である。つまり、単なるシミュレーションで終わらせず、実際に復旧手順を実行してみることだ。

 システムによっては全く停止が許されないため、復旧を試すことはできないこともあるだろう。しかし、いざという場合にぶっつけ本番で復旧に取り組むより、事前に経験しておけばより確実な復旧が可能になるのは間違いない。

 また、マニュアルの記述が不親切だとか、思いもよらないトラブルが発生するなど、実際にやってみて初めて判明する問題点もあるはずだ。復旧作業の内容を定期的に見直し、アップデートしていくためにも、こうした訓練は有効なはずだ。

対策範囲の最適化と見直しを

 これまでは、より広い範囲の災害に対応するための考え方を紹介してきたが、コストの制約を考えれば、全てのリソースを完璧に保護することは現実的とはいえない場合も多いだろう。この場合、システムの中で最も重要な部分だけを手厚く保護し、その他の部分はほどほどの保護に留めておく、といった対策のレベル分けを考慮することで、現実的な保護を実現することを検討すべきだ。

 たとえば、対外的な取引に関わる部分は最重要システムとして保護し、社内システムはある程度復旧に時間がかかってもやむなしとする、といった見極めによって、コストを下げる余地が生まれる。

 また、全てのシステムを自社内に設置するのではなく、インターネットデータセンター(iDC)を適切に利用することで、高いレベルの保護を安価に実現できる可能性も生まれる。iDCは施設面でも災害に対応できる強固な構造を採っていることが多いため、災害時にも大きな被害に遭いにくい。

 さらに、複数のiDCを並行して利用することで地理的な分散を実現し、さらに安全性を高めることも、自社設備としてバックアップサイトを用意するよりは安価に実現できるだろう。契約内容によっては、iDC側でDRに対応するメニューを用意している場合もある。

 変化の激しい現在では、企業の業務内容も刻々と変化していく。従来は自社で担うほかない重要業務と考えられていた業務がアウトソーシング可能になることもあれば、新規事業が立ち上がることで保護すべき対象が拡大することもある。

 DRも、こうした変化に対応してその内容を刻々見直し、常に適切な保護を実現できるように変化し続ける必要がある。

 そのため、DRは一度完成させれば終わり、というものではなく、常に更新し続ける必要がある生きたシステムである。社会情勢や都市のインフラの変化もある。たえず見直しを続ける努力を怠らないことが重要だ。そうするうちに、通信インフラの充実に伴って利用コストが急低下したり、あるいはハードウェアの価格が下がるなど、従来の予算内でより手厚い保護を実現できる余地が拡がることも考えられる。

 その時点で最適な保護を実現するには不断の努力が不可欠であり、システムの運用管理の立場からは負担の大きな作業となるが、いざという場合には企業の存亡に関わる命綱となるのがDRだ。真剣に取り組む価値は高いといえる。

前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ