システム完成後に問われる経営センスとは(2)企業にはびこる「間違いだらけのIT経営」:第10回(2/2 ページ)

» 2006年08月30日 10時00分 公開
[増岡直二郎,アイティセレクト]
前のページへ 1|2       

「静」と「動」で生産管理を考える

 まず、SCM導入の動機や目的があいまいであった。「顧客要求に対する納期遅延が頻発し、残業も減らないから」SCMを導入してみようということだった。本来は経営戦略的視点から、納期厳守・納期短縮という手段による顧客満足度向上、さらに在庫縮減・不良削減・残業縮小などの経営指標改善を指向して業務を抜本的に改革する過程で、SCMをその一手段として位置付ける。そして目標を定量的に設定する。

 これらを全社で共有するところから始めなければならない。これは意識の問題である。今からでも遅くない。トップが本気を出せば全社員の目の色が変わる。

 生産管理システムを、静態管理と動態管理に分けて考えてみよう。

 静態管理とは情報の動きが少なく、メンテナンス頻度も少なく、状況を表す情報が相当期間使える管理状態を示す。見積書作成・受発注管理・作業能率管理・在庫管理などである。

 動態管理とはその逆で、例えば機能としてスケジューリングが入った生産計画、工程管理などである。中でも工程管理は、顧客納期変更・部材の入手遅れや紛失・工程遅延など変動要因が多く、そのたびに作業日程を組み直さなければならないので対応が難しい。

静態管理対象のシステムは、基本情報さえしっかりしていれば比較的問題なく稼働する。B社の場合も例外ではないが、しかし中には基本情報が不正確であったり、基礎業務が確立されていなかったりするために問題となるシステムがあった。

 例えばST(Standard Time 標準作業時間)が不正確なために作業能率管理が実態を表さず、この問題に取り組む「作業能率会議」では事務局が資料に密かに手を入れた。厳しい原価低減目標を達成するために、作業現場に実現不可能なSTの低減を要求することが起こり得たからである。

 在庫管理情報も依然として不良処理手続きが抜けたり不正確だったり、共通部材を自在に流用してルールを守らなかったりするため、当てにならなかった。

 静態管理に近い遅延情報も、部材の入手遅延が多すぎて、遅延を表す朱色で画面が染まり、担当者はいつもどこから手をつけるべきか迷って画面を見て溜め息をつくありさまだった。

 早急に手を打たなければならないことは、STを管理する調査係を設けて強い権限と責任を与えること、業務ルールを守る教育や体制を構築し徹底すること、外注先の能力を見極めたり部材の納入手番(リードタイム)を見直したりすることなどである。

 これらは、先に導入後の問題を分類した意識・体制、システム運用・メンテナンス、システムそのものの問題のうち、意識・体制の問題に属する。これに取り組むには、ことさらトップの関与が欠かせない。

 ただここで注意すべきは、旧態依然とした業務のやり方にSCMを導入しても効果は期待できないということである。すなわち、IT導入に際しては業務改革が必須なのだ。

前のページへ 1|2       

Copyright© 2010 ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ