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» 2006年10月10日 08時00分 公開

驚愕の自治体事情:ロボット職員「各務原カカロ」が教えてくれた実用性よりも大切なこと (1/2)

「市役所の部署をご案内しましょうか?」――ジェスチャーを交えて市役所内の行き先案内や、市の観光案内などをしてくれる市役所職員。ただ1つ違うのは、彼がロボットであるということだ。2006年2月から各務原市役所の受付に配属となったロボット職員「各務原カカロ」の開発の背景や過程について、各務原市役所産業部商工振興課課長の永井誠氏を訪ねた。

[田中雅晴,ITmedia]

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 「市役所の部署をご案内しましょうか?」「お尋ねの課の名前を教えてください」――岐阜県各務原(かかみがはら)市役所の受付を訪れると、かわいい姿のロボットが話し掛けてくる。彼の名は「各務原カカロ」。各務原市の住民票も発行されており、「総合受付」に所属する正式な市の職員だ。解するキーワードは350、首・肩・ひじ・手首・指などの可動部を使い、ジェスチャーを交えて市役所内の行き先案内や、市の観光案内などをしてくれる。端末の細かな部品を除いてはすべて企業や研究所など各務原市内の事業所のみで制作されたという「カカロ」、その開発の背景となった各務原市の現状や、開発途中での苦労などはいかなるものであったのだろうか?

 各務原市役所を訪ねて、実際に「カカロ」との対話を体験するとともに、産業部商工振興課課長の永井誠氏に話を聞いた。

各務原カカロ 各務原カカロ
名前 各務原カカロ
生年月日 2006年2月23日
性別
身長 67センチ
体重 10キロ
住所 各務原市那加桜町1-69
特徴 市の観光名所、百十郎桜の桜色を顔の色に、さまざまな情報をキャッチするアンテナを頭に備えたデザインです。
●市ホームページ掲載のプロフィールより
カカロの住民票

岐阜県・スイートバレー構想の重要拠点

 各務原市がある岐阜県では1994年ごろより、県南部を流れる木曽、長良、揖斐の3つの川沿いにIT産業の集積地を形成するという「スイートバレー構想」に取り組んでいる。これは、情報通信、マルチメディア分野の研究開発拠点やハイテク産業、教育機関に加え、商業複合施設などIT関連企業、コンテンツビジネス、ロボット産業の一大集積地域を形成し、交流・連帯・創造をキーワードに「高度情報基地ぎふ(情場)」作りを推進するもの。現在その中心となっているのが、大垣市の「ソフトピアジャパン」と、ここ各務原市の「テクノプラザ」という施設なのである。

 ソフトピアジャパンがソフトウェア事業に重点を置いた施設であるのに対し、この「テクノプラザ」には現在、「VRテクノセンター」「岐阜県科学技術振興センター」「早稲田大学ワボット研究所」など産官学の研究拠点が集まっており、「IT」と「ものづくり」の融合による産業の高度化・情報化・および新産業の創出をめざしている。この、県が推進するIT基地構想の重要拠点であるという事実が、各務原市のロボット職員「カカロ」の開発された大きな背景となっている。

市内の技術力のみで、ロボットを完成させようという試み

 テクノセンターの存在に加えて各務原市内には、「ロボカップ2002世界大会」において最優秀ヒューマノイド賞を受賞した2足歩行ロボット「ながら」の制作に携わった「芙蓉工芸」をはじめ、ロボットの胴体を作る技術を持っている会社も多く存在する。そこで、ロボット産業が発達している市であるとことを市民にアピールしたいという森真市長の発案で、2004年7月に各務原市産業部が事務所となって各機関に参加を働きかけ「各務原ロボット研究会発足」が発足した。

 例えばトヨタやホンダなどの大企業がロボット開発に成功したというニュースをテレビで見ても、市民は「あれは手の届かない特殊なもの」「大きなお金をかけなければできないもの」と考える。しかし、「各務原の市内の企業が結集すれば、こういうものもできる」ということを認識してもらいたいというのが、基本的な出発点だったという。

 こうして発足した研究会には市内の8団体20名が参加し、月に一度の会合の中で「市が作るのにはどのようなロボットがふさわしいのか?」にはじまるロボットに関する議論や情報の交換が行われた。そして最終的にはVRテクノセンターがキーブランチとなり、試行錯誤とともに発足から1年7カ月を経て、「各務原カカロ」の誕生へとつながったのである。

参加企業の理解に支えられた、失敗が許されない状況での開発

 「歩くのがいいんじゃないか?」「いや、歩くと、子どもなどにぶつかったりして危ないのでは?」「では、防犯機能を持ったものは?」――喧々諤々の議論の末、「受付ロボット」として開発されることになった「カカロ」。研究会の発足から1年半あまりで完成と、その道のりは一見順風満帆であったように思える。しかしやはりその中には、さまざまな障壁も存在したようだ。

 中でも最も大きな問題であったのは、予算の問題。「カカロ」開発の目的はあくまでも「各務原のロボット開発力を、市民にも実感してもらう」というところにあり、何らかの商用利用を前提にしたものではない。税金によって支えられた市の予算で開発を行うのだから、費用は最低限に抑えなくてはならなかったのだ。つまり、通常のロボット開発において行われる「第一弾プロトタイプ制作→問題点抽出→改良型プロトタイプ制作→さらなる問題点抽出→再改良型……」というプロセスを採ることができず、「可能であれば一発完成」(永井課長談)を目指さなければならなかったのである。そのような制約の中で、「軽く持ち運びができるものに」と軽量化した結果、胴体の薄さによる強度不足で失敗したりと、決して道のりは平坦ではなかったようだ。

 にもかかわらず、極めて短期間で完成に至った背景には、「市の主旨に賛同し、可能な限り協力をしてくれた参加企業さんのおかげ」と、永井課長は笑みをこぼす。例えば、多く使用されているアルミ部品の成型を担当した小森精機では、「昼間の、通常の操業時間ではコストが掛かるから」と、わざわざ終業後の夜に有志が機械を動かしてオーダーに応えてくれたという。

 このような理解と協力の結果、「カカロ」の開発に関して各務原市が最終的に要した費用は、なんと破格の800万円に収まったのである。「地元の技術力を知って欲しい」という各参加企業の想いが可能にした、驚くべき数字だ。

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