顧客の声から生まれたApexがSaaSの世界を拡大する(2/2 ページ)

» 2006年10月11日 16時43分 公開
[谷川耕一,ITmedia]
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ビジネスウェブの世界を拡張するWinter'07

 今回のイベントに合わせ、Salesforce.comは最新バージョンとなるWinter'07のリリース、および世界初となるオンデマンド用のプログラミング言語でプラットホームとなるApexの発表を行った。

 最新版であるWinter'07のキーメッセージは「Unlimited Success on The Business Web」。Web 2.0の技術をオンデマンドCRMのアプリケーションに取り込んだ新しいダッシュボードや、マッシュアップ技術などを用いた柔軟な拡張性に加え、ビジネスで必要となる承認のワークフロー機能などが加わり、エンタープライズ領域で必要となる機能が盛り込まれたものとなっている。

 顧客第一の姿勢を証明する拡張としては、最も顧客からの要望が大きかった自動リマインドのポップアップウィンドウ機能が追加された。このことが伝えられると、会場からは大きな拍手が沸き起こった。実際のデモンストレーションでは、先ごろ発表されたSalesforce for Google Adwordsの画面を使い、検索ワードを用いたマーケティングキャンペーンをセールスフォースの画面から一元管理できる様子が示された。この際に用いたのが、Ajaxの機能を使ってユーザーの直感的な作業をサポートする、Business Web Desktopによるダッシュボード画面だ。

 このBusiness Web Desktop機能は、Winter'07の大きな特長の1つであり、従来は必要な情報を縦に並べスクロールすることでユーザーにアクセスさせていた状況を改善。1つの画面の中からAjax技術でインタラクティブなマルチプルウィンドウを表示し、ユーザーの欲しい情報にクリックもスクロールも検索もなしで、瞬時にアクセスできるようにしたものだ。

 このほかにもWinter'07では、カスタマイズできるワークフローや承認の仕組み、各種モバイル端末用のマッシュアップ機能など、多くの拡張がなされている。新たなパートナーシップの成果の1つとして紹介されたのが、シスコの電話ソリューションとの融合だ。コンタクトセンターなどで必要となる機能を、オンデマンドCRMのサービスの上で実現可能なことが示され、電話、emailといったものを1つのコミュニケーションにした新たなコンタクトセンターソリューションが示された。

Apexでカスタマイズから脱しオンデマンドアプリケーションの構築へ

 Dreamforce'05の最大の発表事項は、オンデマンド・ビジネスアプリケーションのマーケットプレースであるAppExchangeだった。今回、ベニオフ氏が最も強力にプレゼンテーションを行ったのが、オンデマンドの次なるステージの核となるものとして紹介した、マルチテナント型のプログラミング言語でありプラットホームのApexだ。

 従来までのAppExchangeでは、タグの名前を変えたり用意されている設定を変更してカスタマイズを行うか、それ以上のことをセールスフォース上でしたければ外部のアプリケーションとして開発しAPIやXMLなどを使ってマッシュアップで連携させるしかなかった。これを「インハウスの開発者と同じ開発のパワーを与える」と表現するように、セールスフォース上で自由にコーディングが行えるようにしたのだ。

 つまり、マシンを用意してソフトウェアをセットアップするという通常のソフトウェアの開発と同じように、セールスフォースを1つの開発環境としてそこで自由に開発が行える開発言語とプラットホームの提供だ。Apexは、Javaと似たスタイルをもっている。そして、セールスフォースの上で利用するために最適化されているので、すでにスケーラブルでセキュアかつ安全な言語仕様となっているとのこと。例えば、ユーザーが無限ループのプログラムを作ってしまっても、自動的にそのプロセスを止めるような仕組みも備えている。また、Apexのプログラムはそれぞれがカプセル化されて実行されるので、ほかのプログラムに影響を与えることもないとのことだ。

 デモンストレーションでは、セールスフォースの画面のAppSetupメニューのCodeのところでApexのコードを表示し、すぐにその場でエディットできる様子も示された。このApexを用いれば、よりERPに近い機能などをオンデマンド上で容易に実装することも可能だ。その際にも、プログラムを作り、マシン環境を用意してインストールするという旧来型のアプリケーションではマシンごとの管理、運用の手間が必要になるが、Apexであれば開発されたものはセールスフォースの環境、つまりインターネット接続とブラウザだけを用意すればよく、OSもデータベースも、アプリケーションサーバについても、開発者やユーザーが管理する必要はない。

「Apexは単なる開発用の言語ではなくプラットホームだ。すべてのソフトウェアを、セールスフォースのサーバの上に直接構築できるようになる。これを可能にするために、われわれはデータセンターやネットワークなどのインフラに、多額な投資を行った」とベニオフ氏。

 昨年のAppExchangeの発表以来、ISVなどの開発者との距離を急速に縮めてきたSalesforce.comだが、今回のApexの提供で開発者にさらなる自由度と強力なオンデマンドのプラットホームを与えたことになる。これで、AppExchangeがオンデマンドのプラットホームとなる準備は整った。このあとは、開発者や顧客が実際にこのプラットホームを活用して、いかにしてアプリケーションを開発してくれるかが鍵となる。米国を中心に、すでに数多くのISVがAppExchangeアプリケーションの提供を開始している。この波が大きくなった際に、旧来型のアプリケーション開発しか行っていない企業は乗り遅れることになりかねない。システムを導入する際に、オンデマンドを含めどのプラットホームを採用するかは、顧客や開発会社にとって将来的に重要な選択となりそうだ。

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