企業のメールボックスからLinuxを忍び込まそうとしているScalix

先日日本法人の設立が発表されたScalixは、AjaxベースのWebメールなどを備えたメッセージング&コラボレーションソフトウェアである。今後注目したい製品の1つだが、競合となるMicrosoftとの勝負に勝算はあるのだろうか。

» 2006年10月30日 08時00分 公開
[Michael-Stutz,Open Tech Press]
SourceForge.JP Magazine

 最近、Scalixは同社の企業向け電子メールプラットフォームをオープンソース化すると発表した。目下、準備中で、バグ追跡システムとコードリポジトリの環境整備、そしてコードのクリーンアップが進められているという。何ともワクワクする話ではないか。昨年、OSDLの発表したDesktop Linux Client Surveyの中で、Outlookに代わる適当な企業向け電子メールクライアントがないことがLinuxデスクトップ導入の最大の障害と述べられていたことを思うと感慨深いものがある。

 社員数50人そこそこのシリコンバレーの新参企業であるScalixが、世界最大のソフトウェアメーカーと戦い続けることなどできるのか。どう見ても彼方の資源が枯渇することはないだろうに。Scalixのオープンソースプロジェクト担当重役Florian von Kurnatowski氏に斯く問うたところ、彼は声を立てて笑った。

 彼は、ダビデの物語を例に挙げながら、「真の意味で競争するのは多少無理がある」と、これが戦いにならないことを認めた。「Microsoftと張り合うなど馬鹿げている。できっこない。正直、同じ目の高さで戦えると誰が言えるだろう?」

 悪名高き相手を遠く見上げて戦ったダビデの話を思い描きながら、彼はこう続けた。「だが一方で、MicrosoftがMicrosoftであるがゆえに競争は案外容易とも言える。ユーザーは独占状況に気づき始めており、そのことがMicrosoftの一番の欠点なのだ」

独占策

 Microsoft Exchangeは、ダウンタイムがScalixサーバのそれより大きいようだが、「まるで信頼できないわけでもない」とvon Kurnatowski氏は言う。Exchangeの問題は、技術的なことよりもむしろ、それを採用することでほかの多くの決定が自動的に強制される点にあるという。

 「Exchangeを購入するとサーバ側でActive Directoryを使わざるを得なくなる。ディレクトリに関して、それ以外の選択肢はない。そしてExchangeを購入したことで、Outlookをクライアントとして使い続けるしかなくなる。ExchangeとOutlookは緊密に統合されているので、別のクライアントを使うことは不可能。結局、 WindowsとOutlookをデスクトップで永久に使い続けなければならないというわけだ」

 「予算的な理由からMicrosoft Officeに見切りをつけたい人は、OpenOffice.orgを使いたいと思うだろう。確かに、これはもう1つの選択肢として普及しつつある。しかし、Exchangeを使用している人に出口はない。 OpenOfficeにはOutlookに相当するものがないからだ。Word、Excel、そしてPowerPointまで何とかOpenOffice アプリケーションに置き換えても、Outlookをどうするかが問題なのである」

 「まだExchangeを使用しているなら、たぶんOutlookをそのまま使い続けるしかなく、OpenOffice導入計画自体が頓挫することになるだろう。OutlookなどのMicrosoftデスクトップアプリケーションの単価はオフィススイートの価格の半分よりも高いからだ。 Microsoftはとても巧妙なライセンス体系を築いてきた。高い買い物ではあるが、オフィススイートの価格は各アプリケーションを単体で購入する場合よりも大幅に割り引かれている」

移行を容易にすること

 同氏は以下の内幕をばらしてくれた。「うわさによると、世界中のExchangeオペレーターの25%はまだExchange 5.5を使用しているらしい。サポートが中止されてもう2年かそこら経つ。これは1995年か1996年に作られたソフトウェアで、実際にサポートの対象から完全に外されている」

 それでも、まだ広く使われているのはなぜか?「第一の理由は、そうしたExchange 5.5システムの多くで、Active Directory以前のWindows NT 4.0オペレーティングシステムが使われているからだ。Exchange 5.5を次期バージョンのExchange 2000へアップグレードした場合、Active Directoryに移行せざるを得なくなる」

 「これは電子メールシステムのアップグレードが必要なことを意味する。電子メールは大規模で重要なアプリケーションなので、手間のかかる作業だ。無論、ディレクトリもアップグレードしなければならない。そこで小規模な会社は、『待ってくれ! そんなことできない!』となる」

 「要するに、プロジェクト全体に楔が打ち込まれたような状況で、稼働中のシステムに手を出しようがないのである。実際、管理者は電子メールとディレクトリその他一切をまとめて移行できるとは思っていない。怖いのだ。口やかましい上司は、『メールがダウンしたら一巻の終わり』という。多くの企業にとって、電子メールは電話以上に重要な位置を占める基幹システムとなっている」

 彼によれば、Scalixに鞍替えしつつある典型的な顧客は、こうした人々だという。ScalixではActive Directoryは必要ない。一部、規模の大きな顧客はそれを持っているが。

 「われわれのユーザーベースを調べると、たぶんその約50%はExchangeからの移行組だろう。Microsoftからわれわれの方に切り替えたいと考えている人々だ」

 残りの半分は? 一部はNotesまたはGroupwiseからの移行組だが、大部分はそれ以外から移行してくるだろう。von Kurnatowski氏は、Scalixの全ユーザーベースの約25から30%は、もっと単純なものから移行してくると見ている。彼らは“単なる電子メール”システム以上のものを求めている。企業向けの電子メールプラットフォームが提供しているグループカレンダーのようなものだ。

 「実際、最近では小規模な会社もグループカレンダーを必要としている。10人程度の会社でも集中管理されたカレンダーがあった方がいいだろう」と同氏は言う。

デスクトップにもたらされるもの

 しかし、われわれが本当に知りたいのは、ScalixがLinuxへの円滑な移行をどう進めるかだ。「Exchange 5.5をScalixに切り替えても、すぐには何も変化しない。これがユーザーにとって一番良い。Outlookをそのまま使い続けることができ、投資が保護されるからだ」

 「次の段階で、WindowsデスクトップのMicrosoft Office(Word、PowerPoint、Excel)をOpenOfficeに切り替える。これでオフィスソフトのライセンスコストがゼロになる」

 「この段階で、同時にOutlookをScalix Web Accessに切り替える。Webベースの電子メールクライアント──Firefox内で実行され、LinuxとWindowsのどちらからも利用できる──はルックアンドフィールがOutlookとよく似ているので、トレーニングコストがかからない」

 「まだWindowsは稼働しているが、これでMicrosoft OfficeがOpenOfficeに切り替わり、Outlookとの縁も切れたことになる。この段階ではWebクライアントを使用する」

 「さて、次の段階でいよいよWindowsに退場願い、Linuxを導入する。アプリケーションはそのままなので、ユーザーから見た変化はそれほど大きくない」

 彼は芝居がかって一息つき、こう付け加えた。「Scalixがこれから辿る歴史は、このようなものだ。主役はScalix。大いに期待できるね」

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