敵は「隣」にあり! 電波の陣取り合戦無線LAN“再構築”プラン(2/3 ページ)

» 2006年11月22日 08時00分 公開
[寺下義文,ITmedia]

空きチャンネルがない場合はどうするか

 こうして慎重な索敵を行った結果、どのチャンネルも見事に埋まっている状況をみて、がく然とすることもあるのではないだろうか。しかし、ここであきらめてはいけない。干渉しないに越したことはないのは事実だが、干渉しているからといって即、利用できないというものでもないからだ。

 まず、各レート別に必要とされる受信感度について、シスコシステムズの無線LANカードである「AIR-PCM350」の場合、表1のようになっている。

表1●転送レートごとに必要な受信感度
転送レート 受信感度
1Mbps -94dBm
2Mbps -93dBm
5.5Mbps -92dBm
11Mbps -92dBm
12Mbps -88dBm
9Mbps -86dBm
18Mbps -86dBm
24Mbps -84dBm
36Mbps -80dBm
48Mbps -75dBm
54Mbps -71dBm

 このdBmという単位だが、0が1mW(ミリワット)で受信できている状況を示し、マイナスが大きくなるにつれ徐々に減衰していくという受信感度を表す単位である。したがって、より0に近い値ほど強い電波だということになる。そして、採用するレートが高速であるほど、より強い電波を必要とする半面、それ以下の感度のノイズであれば無視してくれる。

 これが、以前の説明において高い転送レートに固定するように促したもう1つの理由でもある。上の表を例にすると、48Mbps以上でないと接続を認めないと決めてしまえば、-75dBmよりも低い-76dBm以下のノイズ(外来波)はまったく無視できるようになるのだ。もちろん、ここで挙げた数値はAIR-PCM350についてのものであり、すべての機器に当てはまる値ではない。ただし、その考え方自体はいずれの機器にもいえることである。

自波の感度を上回る外来波の存在

 それでは、外来波の感度が、採用した転送レートで必要とされる感度を上回っている場合にはどうすればよいのだろうか? そこで必要となるのが、「SNR(信号対雑音比)」だ。これは、本当に必要な信号の受信感度から無関係な信号(ノイズ)の受信感度を引いた値、つまり、次の式で求められる。

Current Signal Strength(dBm)−Current Noise Level(dBm)=SNR(dB)

 そして、利用するレートごとに必要なSNRも異なっている(表2)。ちなみに、表2の値もAIR-PCM350を例にしたものだ。

表2●転送レートごとに必要なSNR値
転送レート SNR
1Mbps 4dB
2Mbps 6dB
5.5Mbps 8dB
11Mbps以上 11dB

 もともとIEEE 802.11では、スペクトラム拡散という手法を用いてある程度のノイズは吸収する仕組みが組み込まれており、上記に示すような値以上のSNRが確保できれば、目的のレートでの通信は行えるということになる。

 したがって、目的のレートで通信するために必要なSNRが確保できていないのであれば、本来のAPから送出する信号強度、つまり送出レベル(Transmitter Power)を引き上げるとよい。これに呼応して正規端末側での正規信号の受信感度が増すことになり、その結果としてSNRが向上して干渉問題を緩和してくれるというわけだ。

 ただし、ここで留意してほしいのは「必要以上に」送出レベルを引き上げてはならないということ。なぜなら、自陣側APの送出レベルを著しく引き上げてしまうと、外来波の大本である相手にとって、今度はこちら側が大きなノイズの発生源(敵)となってしまい、相手もSNRを確保するためにこれに負けじと大本の出力を引き上げるという、電波争奪戦が勃発してしまうからである。

 事実、もう3年以上前のことになるが、新オフィスへの移転に伴い筆者がインフラのVoIP+無線LAN化を行った時に、この問題に遭遇した。数日前まで問題なく動いていたはずが、いつの間にかノイズが大きくなっており、後日、チャンネルの変更と送出レベルを再調整する羽目になってしまったのだ。外来波を思うように食い止めることができないのと同様に、こちらから送出する電波も外来波の大本に到達してしまうということをよく理解してほしい。

 したがって、調整における最初の送出レベルは、いきなりMAX(100mW以上)から始めるのではなく、1mWから始めるということも付け加えておきたい。また今回、あえて比喩(ひゆ)ではなく「索敵」という言葉を使ったことにも納得いただけたのではないだろうか。

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