「IT標準化に向けたゴール設定と人材確保で乗り切れ」──日本オラクルの新宅社長2007年新春インタビュー(2/2 ページ)

» 2007年01月01日 00時00分 公開
[浅井英二,ITmedia]
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ITmedia とはいえ、ITの果たす役割は大きいのではないでしょうか。

新宅 ITの果たす役割はもちろん重要です。ITの力によって経営は説明責任を果たせ、数字が正しいことを担保できます。むしろ、これまで、ITの費用対効果が見えない、といわれてきましたが、きちんと説明できる好機だと思います。

ITmedia J-SOX法に対応するには、ERPの導入が近道だという売り込みもあります。

新宅 米国でSOX法が施行されたきっかけは、大きな不祥事が続いたことです。企業の業務プロセスを説明できる形に変えていく中で、北米を中心に多くの企業が実際にERPを導入しました。ERPであれば、経営がリアルタイムにすべてを把握できるし、求められたときにはデータの検索や分析がすぐに行えます。

 しかし、ERPを導入することがゴールではありません。経営の要求が、ほかの方法で満たせるのであれば、それでやればいいのです。ITは道具に過ぎません。

 ただ、どんな方法にせよ、導入すれば、その価値を問われ、全体のシステムとして正しく機能していることを担保しなければなりません。過去にも「業務プロセスの革新」「ベストプラクティスの活用」といった目的でERPの導入が促進されてきましたが、今回の方がよりクリティカルといえるでしょう。ERPには大きな市場機会があるとみています。

革新が次の成長を生む

ITmedia 日本経済の先行きにも明るい兆しが見えてきていますが、業種や企業のあいだでは格差も見られます。

新宅 自動車のようにメーカーと傘下の部品メーカーがうまく機能している産業もあれば、そうでない産業もあります。自動車産業では、傘下の部品メーカーもグローバル化に成功し、系列を超えた取引も始まっています。バリューチェーン全体で市場の動きに迅速に対応し、世界トップになろうとするメーカーも現れています。

 一方、小売りのような業界は、経営努力によるコスト削減も限界に近く、革新が求められています。

ITmedia 昨年11月下旬、小売り業向けの専任組織「オラクル・リテール・ジャパン」を発足させ、「Oracle Retail」を日本市場で本格展開することを明らかにしましたが、どのような支援ができるのでしょうか。

新宅 もはや人件費は削れるところまで削っています。むしろ、重要なのは売れる新商品を開発したり、品ぞろえを改善して効率を高めていくことです。物流にも効率を図る余地はあります。われわれの小売り業界向けソリューションは、そうした取り組みを支援するもので、単にコスト削減一辺倒ではなく、次の成長を後押しします。

ゴールの設定と人材の確保が重要

ITmedia ITの適用領域が今までになく拡大したり、活用の度合いがここまで高度になってくると、システムとしてデザインしたり、導入したり、運用できる人材が限られてきています。

新宅 大手企業でも異口同音に「人材が不足している」という話を聞きます。ITベンダーに求めていることをうまく説明したり、ITベンダーの提案を理解して妥当性を検証する人がいないのです。これらを人任せにはできません。企業側にリーダーがいなければ、仮にプロジェクトがスタートしても、それを完遂することはできないからです。

 とても忙しく、明日の技術を学ぶ時間がないということですが、そうなるとITベンダーの人材をうまく活用するのもひとつの手として考えるべきでしょう。どちらも民間なので、人材を生かしていくことに積極的になればいいと思います。日本郵政公社が昨年、民営化に向けて情報システムの企画・開発・運用担当者を民間から募集しましたが、日本オラクルからも人材を送り出しました。

 企業側に将来の標準を決めていくことができる人材があれば、新規開発にIT支出の2割しか投じることができないという「2:8」の議論はなくなるのではないでしょうか。ITの標準化を進め、「4:6」を実現している企業は実際に存在します。

 多くの企業では、Windows、Linux、UNIXがばらばらに導入され、今もオフコンやメインフレームが使われています。人事システムと整合性の取れていないシステムがたくさんあり、ばらばらに構築された物流、生産、販売などのシステム間も神業でつないでいます。これでは何が正しい数字なのかを担保できません。

 もちろん、こうした現状を変革する取り組みは、すぐに結果の出るものではありませんが、だからといって10年前と何も変わっていないのは考えものです。

 今すぐにでも経営とITが「3年後に“4:6”を実現するための戦略」を議論すべきです。内部統制も何かを削って取り組む必要はありません。4割の新規開発でまかなえます。

 今まで以上に、ゴールの設定と人材の確保は企業にとって、より大切になるでしょう。

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