「多重装備」で巻き返しを図るオラクル「SaaS」の未来やいかに 第9回

いよいよSaaS市場に参入した、ソフトウェア大手のオラクル。「ハイブリッド活用」という「武器」に加え、「BPOへの適応」「ROA向上への対応」といった強みを売りに勝負に挑む。SaaS市場発展のカギとなるのか。

» 2007年01月31日 07時00分 公開
[富永康信,アイティセレクト編集部]

大手ゆえに築けた「武器」

 オラクルが2006年10月に提供を始めたSaaS型アプリケーション「Siebel CRM On Demand」は、なぜサーバ型との平行運用というハイブリッド形式で利用できる(1月29日の記事参照)のか。それは、データベース内に共通項目を設け、SaaS(Software as a Service)型で入れたデータをサーバ型にもシンクロナイズできる点にある。

「Siebel CRM On Demand」と「Siebel CRM」の連携の仕組み

 オラクルは今後、「Oracle E-Business Suite(Oracle EBS)」や「PeopleSoft Enterprise」などのほかの製品ファミリーに対してもシームレスに相互運用ができるようにする考えだ。そうなると、Oracle EBSを使ってオーダーマネジメントをしている企業とSiebel CRM On Demandを使う販売代理店との間で何も設定変更することなくデータ移行することができるようになる。

 オラクルは、自社のデータセンターを使ってデータベース、ミドルウェア、アプリケーション、ハードウェアを提供することにより、信頼性や安全性、システム性能を担保している。そのため、スループットのコミットなど問題が発生した際、磐石な体制で復旧対策ができるという。

BPO化やROA重視にも対応

 SaaSの次のステップは、BPO(ビジネスプロセス・アウトソーシング)といわれる。そこで要求される専門的な知識やデータベース管理などは、オラクルが最も得意とするところだ。こうしたことは、今後のSaaSにおける差別化要因になり得るかもしれない。

 日本オラクルインフォメーションシステムズ営業推進本部本部長の市東慎太郎氏は「日本市場でのSaaSのポテンシャルは大きい」と語る。サーバ型でアプリケーションを持つことは資産になる。そこに注目しているのだ。

 とりわけ、金融業界ではROA(総資産利益率)が重視されるため、バランスシート内で資産項目を膨らましたくないという傾向が強くなりつつある。そんなオフバランス目的に対し、SaaSは適しているという。

虎視眈々と逆襲の機会を狙う

 さらに、市東氏は次のような私見を示す。

 「サーバ型の市場は今後も堅調に伸びるでしょう。一方、オンデマンド型のSaaSは、サーバ型とは全く別のマーケットとして成長していくと考えています」

 これは、ガートナーが予測するように、SaaS市場がサーバ型の市場を侵食する形で広がる(1月9日の記事参照)ことはないという見方である。だが実際には、その新たなマーケットにおいて、セールスフォースドットコムがシェアを伸ばす一方で、オラクルは取りこぼしつつある。

 Siebel CRM On DemandというSaaS型サービスをそろえた理由について、「多様な商品ラインアップをそろえるためのカバレッジの1つ」と、オラクルは説明する。「現在のSaaSの日本市場では他社が先行していますが、2007年中には追いつきたい。これが、当社のSaaSに対する気合の表明でもあります」と市東氏は語る。ソフトウェアの巨人、オラクルの今後の展開から目が離せないところだ(「月刊アイティセレクト」2月号のトレンドフォーカス「サーバー市場と異なる成長は当たり前 SaaS型ベンダーの思惑はどこに?」を再編集した)。

※本文の内容は、特に断りのない限り2006年12月現在のもの。

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