“大御所”オラクルが動き出した「SaaS」の未来やいかに 第8回

SaaSを積極的に展開するのは、セールスフォース、ネットスイートといったSaaS大手だけではない。データベースソフトウェアの最大手、オラクルも満を持してSaaS市場に参入した――。

» 2007年01月29日 07時00分 公開
[富永康信(ロビンソン),アイティセレクト編集部]

サーバ型の実績を糧にいよいよ参入

 ソフトウェアの巨人、オラクルは、さまざまな形でオンデマンドサービスを提供している。「Oracle E-Business Suite On Demand(EBS On Demand)」や「PeopleSoft Enterprise On Demand」などは、オラクルのデータセンターでソフトウェアをホスティングし、運用管理を代行するサービスだ。

 そして2006年10月、本来の意味でのSaaS(Software as a Service)型アプリケーションとなる「Siebel CRM On Demand」の提供を開始した。その特徴は大きく分けて3つある。

 まず、短期間で導入可能なこと。CRMは情報系のため、ROIの見通しや活用できるかどうかが不明確だと、導入を控える企業がある。そのため、パイロット的に導入できる手段としてSaaS型アプリケーションを用意した。サーバ型のCRMと比べ、5分の1程度の期間(1〜2カ月)で導入できるようになっている。

 それから、導入企業にとってシステム投資が明確になるようにした。1ユーザー当たりの月額料金を固定化したほか、自動アップグレードによる管理者の手間を省いたり、インフラ不要で導入できるようにした。これにより、サーバ型アプリケーションに比べ低いTCOの実現が訴求できるようになった。

 具体的には、容量10Mまでで1ユーザー当たりの月額料金で8750円とし、ほかのSaaSモデルより抑えた設定にした。オプションでは、容量100Mで全ユーザーが利用可能なものが月額1250円。そのほか、問題に対して4時間以内に解答するといった、有償サービスのゴールドカスタマーケアをそろえた。

 3つ目は、オペレーションクオリティである。CRMを組む際、何を基準に構成すればいいのかを明確にできないケースがある。そこで、世界最大といわれる、500万ユーザーからのフィードバックを吸収して算出した最大公約数で各業界に向けた基準値を導き出し、顧客にそれを示すことでカスタマイズの解を得ることを可能にした。

サーバ型との平行運用可能で差別化

 サーバ型では、ハードやソフト(OSやデータベースなど)、ライセンス(フィー)、サーバ環境・ネットワークの整備、導入プロジェクトの費用などが初期導入コストとして発生する。それらの保守に加え、人件費、セキュリティ対策、アップグレード費用などはランニングコストとして必要になる。

 ところが、サブスクリプションモデルであるSaaSであれば、そうしたコストをすべて考えなくていい。もちろん、SaaSには制約も多くあるため、それを承知の上で利用するのが条件となる。それでも、ウェブアクセスの環境さえあれば初期導入コストは導入プロジェクト費用(レポーティングのカスタマイズなど)のみに削減できるほか、ランニングコストもサービス使用料に集約できるメリットがある。

 ただ、長期にわたって利用する場合、SaaSの立場は危ういものになる。これに対応しているのが、Siebel CRM On Demandだ。サーバ型「Siebel CRM」と平行運用できるようにしているのである。

 例えば、まずオンデマンド型(Siebel CRM On Demand)を使ってみて、「使える」と判断できればサーバ型も導入し、平行運用する。こうすれば、ある時期からサーバ型へ完全に移管できるパスを築くことができる。これにより、トータルコストを低く抑えられる可能性が生まれる。

 あるいは、ある部門で試験的にオンデマンド型を導入し、その後全社拡大するタイミングでサーバ型に移行するとか、本社でサーバ型、海外拠点ではオンデマンド型といったように使い分けるということにも使える。

 「Salesforce.com」や「NetSuite CRM」など、SaaSの有力ソフトにはない「平行運用」という強みを持つSiebel CRM On Demand。果たして、この差別化は導入企業にとってどう影響するのだろうか(「月刊アイティセレクト」2月号のトレンドフォーカス「サーバー市場と異なる成長は当たり前 SaaS型ベンダーの思惑はどこに?」を再編集した)。

※本文の内容は、特に断りのない限り2006年12月現在のもの。

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