加速するSaaS化 標的は中堅・中小企業「SaaS」の未来やいかに 第7回

セールスフォースに続く「黒船SaaS」として、日本市場に進出してきたネットスイート。SaaS化がより進展することを確信し、2007年は次々と新展開を図る――。

» 2007年01月26日 07時00分 公開
[富永康信(ロビンソン),アイティセレクト編集部]

合理化ではなく経営環境改善を目指す

 ERP、CRM、Eコマースの3つを統合した、ネットスイートの主力製品「NetSuite」がほかのSaaS(Software as a Service)と異なる点は、ビジネスプロセスのインテグレーションを意識しているところである。例えば、商品の出荷や請求書の発行などを1ビューで確認し、営業のアクションが次工程のプロセスをプッシュする。これが自動的に実現するシステムを目指しているのだ。また、ロールベースのパーミッション管理(役割ごとの権限設定)をデフォルトで細かく用意し、業務フローと業務内容をあらかじめ決めうちすることで、エントリーを簡易にしている。

 同社代表取締役社長の東貴彦氏は「NetSuiteは合理化のためのITではなく、経営環境を改善するためのITといえます。経営者が業務プロセスの自動化を受け入れるか否かは、企業の都合に左右されますが、業務や経営を統合的に見て、企業のパラダイムシフトを支援することがNetSuiteのミッションです」と語る。

 そのため、NetSuiteは既存のITに追加するものではない。新規導入やスクラップアンドビルドが求められている。つまり、IT全体をワンストップソリューションに置き換え易い、中堅・中小企業を対象にした製品だ。

 SaaSでは通常、マッシュアップが話題となる。そういった観点からすると、NetSuiteがSaaSであることには違和感を覚えなくもない。ところが、同社セールス&マーケティングのディレクター、高沢冬樹氏は「会計アプリケーションとCRMをつなげることは実際には無駄が多く、そうたやすいことではない」と説明する。ビジネスプロセス全体のマネジメントの視点があって、マッシュアップは初めて生かされる。だが、現状ではソフトウェア同士の連携やアプリケーション間のデータ交換、その一貫性の維持などに無理や無駄が生じているというのである。

 「NetSuiteではそれを統合し、顧客が『得意先』であったり『学生』や『患者』であっても、柔軟にカスタマイズできるよう“素朴”な形で基礎的オブジェクトを用意し、かつ一貫して運営できるようにしている点がポイントです」(高沢氏)

一般業務の領域ではオンデマンド化が加速

 今後の製品計画としては、Eコマースに関する決済や配送、携帯電話アクセス機能などの追加実装、パートナーソリューションの導入を3月までに実施する。また、6月までにはCRM、CRM+の日本向け機能の強化を予定している。それから、日本導入が待たれるERPについては、2006年11月に資本・業務提携したミロク情報サービスとの協業でローカライズを進め、2008年第2四半期に投入する考えだ。これにより、NetSuiteはようやく名実共に“スイート”となる。

 同社は、業務そのものをつくり込む基幹システムなどを除き、多くの企業の一般的な業務や汎用的にモデル化できる部分は、一層オンデマンド化が進行するだろうと考えている。「ここ1〜2年の間に、IT内部統制やセキュリティ、ITガバナンスなどの面から、企業全体のソリューションの中で、SaaSが必然となってくるでしょう」(東氏)

 確かに、今後は多種多様なSaaSビジネスが増加するとみられ、どれだけ特徴を出せるかが勝負となる。統合アプリケーション・スイートという点では、NetSuiteはユニークな存在といえるだろう(「月刊アイティセレクト」2月号のトレンドフォーカス「サーバー市場と異なる成長は当たり前 SaaS型ベンダーの思惑はどこに?」を再編集した)。

※本文の内容は、特に断りのない限り2006年12月現在のもの。

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