ネットと政治の微妙な関係“選挙マーケティング”が始まっている(1/3 ページ)

なぜ公選法ではネット利用が制限されるのだろうか? 参院選も終盤戦だが、最近は奇妙なことが起きている。政党Webサイトの更新が目立ち、これまで公選法に抵触するからと自粛されていたものが、今回の選挙では破られているのだ。

» 2007年07月26日 13時11分 公開
[森川拓男,ITmedia]

 マーケティング手法として、口コミ効果を狙った「ブログマーケティング」が一般化してきた。そして、いまやこれは一般企業に限らず、さまざまな分野で事例が見られるようになった。それも、政治の世界にも広がってきていると感じるのが最近の動向で気になったものの1つだ。

 そこでこの記事では、政治の世界とインターネットとの微妙な関係について、その実態と問題点、そして今後どのようにあるべきかを考察したい。

“公選法”はどうなったのか?

 “亥年選挙”という言葉をご存じだろうか。正に今年、亥年は、4年ごとに行なわれる統一地方選挙と、3年ごとに行なわれる参議院議員選挙が重なる、12年に一度の選挙イヤーなのである。

 参議院議員の任期は6年。3年ごとに半分の改選が行われるが、解散のある衆議院と違って解散がない参議院では、一度当選すれば6年間、国会議員として活動することになる。この6年間という期間は現代では長いものだろう。

 この重要な国政選挙がある前に、地方議会の選挙が行われる――これによって、政治家や有権者が「選挙疲れ」を起こしてしまい、参院選の投票率が低くなるという現象が発生するのだ。事実、過去の亥年選挙では、その前後と比較しても投票率が低くなっている。

 いまから12年前、1995年7月23日に投開票が行われた参院選の投票率は44.52%。その前の1992年が50.72%、次の1998年が58.84%と、亥年の1995年の投票率が落ち込んでいるのが分かる。さらにさかのぼってみると1983年6月26日投開票の亥年参院選では57%。一見、多いように思えるが、その前の1980年が74.54%であり、次の1986年では71.36%であることから、やはり亥年だけが落ち込んでいるのだ。さらにさかのぼってみても同じような結果が見られる。

 とすると、今回も投票率はやはり低いのか――それは分からない。そうというのも、今回は期日前投票についてのプロモーションが進み、各地で中間状況が前回を上回っているからだ。当初、国会会期延長の余波で1週間ずれてしまった投開票日が夏休みの最中になってしまった影響で、ただでさえも低くなる投票率がさらに落ち込むのではないか? という予測もあるが、フタを開けてみなければ分からない状況なのが確かである。

 さて、7月13日に参院選が公示され、各候補、政党は選挙運動に邁進している。テレビでも政見放送のほか、政党CMや、討論番組など、アピールに余念がない。

 その一方で、ネット利用の選挙運動に関しては、公職選挙法(公選法)の「文書図画」の配布にあたるとして、選挙期間中の更新をストップさせるなどの措置が取られてきた。ネット時代であるというのに、一番利用しやすいメディアが規制されるという事態になったのである。

 しかし、今回の選挙では少し様相が異なっている。すでに報じられているとおり、各党や候補が、なし崩し的にWeb更新を行っているのだ(関連記事)

 とある大臣は、説明責任を問われた時に決まって、「法律にのっとってやっている」という決まり文句を口にして、一般国民を呆れさせた。しかし、自分で利用できるとなるならば法解釈をきちんとせずに既成事実を作ろうとするのだから、より呆れた話だ。もし、これが認められるのならば、疑惑を向けられた大臣は、法律を超えて釈明すればすっきりするのだが。

なぜ公選法で制限するのか

 そもそも、なぜ公選法ではネット利用が制限されるのだろうか。

 実のところ、公選法では別に「ネットを利用しちゃいけない」と禁止しているわけではない。あくまでも、ネット利用が、公選法で禁止される「文書図画」にあたると総務省が判断して、抵触する恐れがあるとされてきたわけだ。

 この「文書図画」であるが、公選法で認められているのは、ビラやハガキのみ。新聞の折込広告として、政党や候補者のビラが折り込まれているのを見た人もいるだろう。これは、公選法で認められた行為である。

 具体的には、公選法142条「文書図画の頒布」の中に、「選挙運動のために使用する文書図画は」、公選法で規定されたハガキ及びビラ以外は頒布できないとされているのだ。しかも、ハガキやビラに関して、枚数なども細かく規定されている。

 公選法でこのような制限をするのにはワケがある。つまり、選挙活動の平等さからだ。例えば政見放送を例にとると、どの候補に関しても、撮影方法から放送時間まで、キッチリと決められている。

 しかし、これが本当に平等なのだろうか?

 現在の公選法で定められた方法は、金銭的に余裕のない無所属候補や小政党などには不利だろう。税金で政党交付金が割り当てられた政党ならば、選挙資金を捻出して大量のビラを作ることも簡単だし、それらにかける人員も動員できる。

 また、テレビなどの報道では、大きな政党や注目候補に関しては追っかけても、小さな政党や候補者の多くは、その他大勢で済ますことがほとんどだ。

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