民営化間もないNTTの秘策とは?日米「巨人」たちの握手温故知新コラム(1/2 ページ)

世の中に登場して半世紀しか経たないコンピュータにも、歴史が動いた「瞬間」はいくつも挙げることができる。ここに紹介する「ビジュアル」もまさしくそのひとコマ――。

» 2007年08月30日 07時00分 公開
[松岡功,ITmedia]

このコンテンツは、オンライン・ムック「運用管理の過去・現在・未来」のコンテンツです。関連する記事はこちらでご覧になれます。


2台巨頭、異分野での協業

 「日米の"ガリバー"が手を組んだ」・・・20年あまり前、マスコミがこう書き立てて当時のIT業界に衝撃を走らせた合弁事業があった。旧電電公社から民間企業に衣替えして間もないNTT と、コンピュータの巨人IBMの日本法人・日本IBMの両社が均等出資して設立した新会社「日本情報通信(略称:NI+C、エヌ・アイ・アンド・シー)」がそれだ。今回ご紹介する写真は、その新会社設立の記者会見のひとコマである。

NTTと日本IBM の合弁会社設立を発表する両社首脳。左からNTTの真藤社長、岩下常務(新会社社長)、日本IBMの向野常務(新会社副社長)、椎名社長〔1985年12月8日の記者会見〕

 時は1985年12月8日。都内ホテルで行われたこの会見のひな壇に上がったのは、当時の肩書きのままで紹介すると、左からNTT の真藤恒社長、岩下健常務(新会社社長)、日本IBMの向野圭蔵常務(新会社副社長)、椎名武雄社長の4 人。とくに旧電電公社の民営化で強力なリーダーシップを発揮した真藤NTT社長と、日本IBMを名実共に日本市場に根付かせた椎名社長が同じひな壇に上がった光景をとらえたワンショットは、歴史的価値をも持つ写真である。両氏の表情からは、さまざまな思いを巡らしながら新たな事業に挑もうとする、何とも言えない緊張感が伝わってくる。

 NI+Cは当時、VAN(付加価値通信網)を中心とする情報通信サービスを行う会社として誕生した。VANという言葉も懐かしいが、業務内容にはさらに「SNA-DCNA相互接続に関する共同研究の成果を含む情報処理・通信技術を活用した事業」も重要項目として挙がっており、これもまた懐かしい「SNA」や「DCNA」といった言葉がキーワードだったことが見て取れる。

 異分野の融合といえば、今も「通信と放送」の融合などで話題となっているが、当時のNI+Cの誕生はまさしく「通信とコンピュータ」の融合を象徴する出来事だった。同社はNTTの情報処理、IBMの通信といった互いの弱点となる分野を補完するという意味を持っていたが、当時の業界関係筋ではIBMの方がメリットは大きいという見方が大勢を占めていた。というのは、主力のVAN事業において、あくまでもIBMのハード、ソフト、そしてIBM独自のネットワーク・アーキテクチャであるSNAを基本としたサービスを展開すると見られたからだ。言い換えると、IBMはこの合弁事業によって、NTTという日本最大のキャリアをバックボーンに、自社製品の拡販を強力に推進していくための願ってもない手段をつかんだのである。しかも、それがSNAベースで広がっていけば、当時IBMが世界的規模で進めていたSNA戦略と合致し、同社の支配力をますます増大させることにつながる。

       1|2 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ