とはいえ、NTTにとってもメリットは決して小さくないと見られた。民営化した同社にとって、当時注目されていたVANサービスへの本格参入は事業拡大の旗印だった。さらにNTT独自のネットワーク・アーキテクチャであるDCNAとIBMのSNAを相互接続させた事業展開は、「開かれたNTT」を象徴するのに打ってつけだった。それは「今回の合弁事業は、日本が情報の島国にならないための布石」と語った真藤NTT社長の言葉に端的に表れていた。
だが、こうした両巨人の合弁事業に、ライバルとなるベンダーは当然ながら強い危機感を表明した。当時電電ファミリーと呼ばれていた大手国内ベンダーはこぞって「日本の情報通信産業の発展を阻害する恐れがある」と反対運動まで起こしたほど。これに対し岩下NI+C社長は、「新会社はあくまで両社の子供にすぎず、それほどの影響力を持つものではない」と弁明。日本IBMの椎名社長も「競争原理は競争を通じてより良いサービスを廉価に提供することにあり、国が政策として競争の原理を導入したのだから、今回の合弁事業はごく自然なことではないか。もちろん、従来の電電ファミリーとして培ってきた関係は、今後も発展的に継続していけばよい」と強調した。
ちなみにこちらの写真は、1985年4月1日に新発足したNTTが同月19日に都内ホテルで開催した創立記念パーティーの光景である。今回の本論とは直接関係ないが、この盛大ぶりを見てもらえば、当時の電電民営化がいかにエポックメイキングな出来事だったかを感じ取ってもらえるのではなかろうか。
さて、現在のNI+Cはどうなっているかというと、業務内容はだいぶ変わったものの、親会社であるNTTおよび日本IBMに関係しない独自の顧客も増え、いわゆるソリューション・プロバイダーとして確固たる地歩を築いている。だが一方で、かつて電電ファミリーが恐れたほどの影響力は、結局は生まれなかったといえる。それもこれも最大の理由は、85年当時、インターネットが今ほどの存在になるとは誰も予想しなかったことに尽きるだろう。
このコンテンツは、月刊サーバセレクト2005年9月号の記事を再編集したものです。
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