和泉法夫――野鴨が感じた恩義と権腐十年の思いBusiness Maestro(2/2 ページ)

» 2008年01月17日 04時33分 公開
[西尾泰三,ITmedia]
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終わりの始まりではない

―― 和泉さんの退任が日本SGIにとって「終わりの始まり」ではないと?

  この10年、わたしは日本SGIにフリーエージェント制よろしく金に糸目を付けずに能力のある方を連れてきて、ビジネスを進めてきたわけではなく、新卒の方を育てるようにしました。10年前に新卒だった彼らは今、日本SGIの中核的な存在になり、社員全体でも約4割が新卒の人間です。彼らには確かにシリコングラフィックスのビジョンが根付いています。日本SGIの最大の武器はシリコングラフィックスのDNAを継承する人材なのです。

 わたしがIBM時代に得た最大の資産と考えているもの、それはかつてのIBMの社員教育のベースに常に根付いていた「野鴨たれ」という精神です。飼われたカモは食われるしかなく、かつよどみを生み出してしまうことになります。

 しかし一方で、野鴨たちはトップが変わったからという理由で飛び去るわけではありません。野鴨たちが飛び去るとすれば、それはシリコングラフィックスのビジョンが書き換えられるような場合でしょう。人に付き従うのではなく、ビジョンに付き従うのです。シリコングラフィックスのDNAを継承する人材は、そのビジョンが不変である限り、力を発揮しようとするでしょう。

―― 日本SGIは、この世界にフィットするものを目利きし、ベンチャー企業だけでは普及が難しい部分を自らがハブとなりつつ先進的な技術を世に送り出してきました。しかし、Web2.0などの言葉にみられるように、企業とユーザーの距離が近くなってきている中、まだ昔のビジネス形態から完全に抜け切れていないかのような印象もあります。

和泉 なるほど。そこはもしかするとわたしの限界ということなのかもしれません(笑)。だからこそ新たな発想が求められるということにもなるのです。メインフレーム、そして箱売りという時代を経験してきた人間が、変わりゆく時代に追従する努力をしたとしても、完全に変わり得るかといえば、やはり箱に対する愛着などの形で残っているものですから。わたしにしてもそうです。

日本SGIの2007年と今後の展開

―― 日本SGIが手掛けるSiliconLIVE!は2007年、どのように進化しましたか?

和泉 2006年から2007年はじめにかけて、日本SGIはさまざまな提携や買収を行ってきました。そして、2007年はそれらを活用して結果を出そうと社内の人間には伝えていました。

 カットオーバーしてアナウンスできるまでにはある程度の時間を要しますので、それらが目に見える形になるのはもう先ですが、スタジオジブリのような非常に分かりやすいソリューションが事例として今後お見せしていけるでしょう。

 テープレスなどの市場でも同様です。今後、とんがった企業の事例が世に出てくることになるでしょうが、そうしたものを目にしたとき、「欧州の技術もこういった形で入ってきたか」と感じてもらえると同時に、なぜ日本SGIが欧州に100%子会社を設立したのか、企業がグローバルで勝負するためのITとは何か、といったことが明らかになるでしょう。わたしが常々お話ししているように、インフラ上で動くサービスを提供しているだけならそれはITとは呼べません。インフラまで含めたサービスを提供してはじめてITなのです。

―― 日本SGIもSaaS事業を開始していますが、こちらの立ち上がりはどうですか?

和泉 SaaSについて、大手企業がなぜSaaSに完全にシフトしないのか。それは、既存のパッケージやシステムインテグレーター事業で得られる利益が、SaaSで得られるそれよりはるかに巨大だからSaaSに完全にシフトするという決断を下せないのです。

 格下のようにみられているSaaS事業ですが、あるタイミングで営業努力をそれほどせずとも既存のパッケージ、もしくはシステムインテグレーターの売上げをしのぐものに化けるのです。そのトリガとしては複合技も必要ですし、ある程度忍耐も必要となります。大手企業にとってSaaS事業は投資なのです。

 しかしそれでも、企業のコアの技術がSaaS上に乗っかって提供されるようになると、「誰でも大手企業と同じことができる」というSaaSが持つメリットが真に生かされるようになります。品ぞろえが進めば、SaaSは指数関数的に成長するポテンシャルを持っているのです。日本SGIも自社のコアの技術をSaaSとして提供し、少なくとも2008年後半にはブレークイーブン(損益分岐点)に到達し、投資のフェーズを脱するといえるでしょう。

―― 最後に、4月以降どうするかは決まっていたりするのでしょうか。

和泉 まだわたしのプライベートな部分を理解していませんね(笑)。わたしは現在、東京と八ヶ岳で二地域居住をしているのはご存じだと思いますが、軸足の置き方を一定させていないことからも分かるように自由人気質なところがあります。退任の発表をした後、さまざまな方から「ハッピーリタイアメントですね」「次は何を」などと尋ねられますが、まぁご想像におまかせしますよ(笑)。わたしにとって今重要なのは、今の時間であって、日本SGIでの残された時間もこれまでと変わらずパートナーや顧客とお会いして今後の日本SGIに何ら心配はないことを説いていきます。

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