瞬時に起動するLinux環境SplashtopLinux Hacks(3/3 ページ)

» 2008年03月13日 00時00分 公開
[Nathan-Willis,Open Tech Press]
SourceForge.JP Magazine
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VM、ソースコード、SDKについて

 Splashtopが立ち上がるまでの9秒間に、何が起こっているのだろうか。ユーザーの目に見える各アプリケーションは、個別の仮想マシン(VM)になっている。システムはまず、DeviceVMが独自に設計したリアルタイムOS(RTOS)を起動し、それぞれのVMの起動と管理はこのRTOSによって行われる。VMはいずれもLinuxベースだが、RTOS自体はLinuxベースではない。

 この点は、BIOSに代わる存在であり、以前はLinuxBIOSと呼ばれていたCorebootの設計に似ている。ハードウェアの初期化は非常に簡単で、主な処理としては別のOSのロードを行う。DeviceVMのCEO、マーク・リー氏は自社について次のように述べている。「LinuxBIOSの開発には非常に関心がある。BIOSが軽くなればLinuxをベースにしたわれわれの環境の起動時間も短縮され、ユーザーの満足度は向上する。当社はCorebootプロジェクトとの相乗効果を狙っており、同プロジェクトを有益かつ相互補完的な存在と取らえている」

 両者の大きな違いは、Splashtopがマザーボードに通常備わっているOEM供給されたBIOSの置き換えではないことにある。一方のCorebootでは、そうしたBIOSを置き換えるため、保証が無効になることを快く思わない人にとってはリスキーな選択肢になっている。

 SplashtopのRTOSはサイズが非常に小さく、現時点では512Mバイトの容量を持つ専用フラッシュチップのうちの“数百Kバイト”しか占有しない。残りの領域は、アプリケーションVM用の空間やユーザーアカウント情報(主としてブラウザ、Skype、IMクライアント用のアカウントデータ)の保存領域として使われる。アプリケーションVMの方はPCのHDDや光学ドライブにアクセスする可能性があるが、Splashtop自体はドライブ類がつながっていなくても起動できる。

 DeviceVMの事業開発担当取締役デビッド・スペイサー氏は、Splashtopの特徴が生かされるのはHDDが故障したときだ話す。HDDが動作しなくても、Splashtop環境を起動すればすぐにオンライン状態になるので、復旧策を検索するなり新しいハードウェアを注文するなりできるわけだ。

 ただし、PC本体に障害が起きたときの復旧方法を探す場合を考えると、Splashtopに障害回復や診断のツールが用意されているのかが気になるだろう。少なくとも今のところ、そうしたツールは用意されていない。そうしたシステムレベルのツールは、保証内容を考えるOEM業者の手で追加するのが最善だとスペイサー氏は述べている。しかし、それでは積極的なハッカーによって障害回復用のVMがアフターマーケット向けのアドオンとして生み出されることになるだろう。

 Splashtopの現行バージョンでは、ユーザーによる追加アプリケーションのインストールはできない。システム内部の解析と変更はASUS製 Eee PCのサポート(これはDeviceVM側ではなくASUS側の決定)直後から何度も要望されてきた機能の1つであり、具体的なアプリケーションの要望もある、とスペイサー氏は述べる。

 そうした目的のために、DeviceVMではソフトウェア開発キット(SDK)に取り組んでいるという。「世の中にはSplashtopをハックしたりいじったりするのが好きな人々がたくさんいるので、SDKの開発は当社にとって非常に重要なゴールだ。われわれはLinuxコミュニティーの成果を活用している。だから、それに報いたいと考えている」(スペイサー氏)。できれば今年中にSDKをリリースしたい、というのが同氏の希望だが、それ以上に具体的な見通しは立っていない。取りあえず、興味のある人々はSDK発表時に通知を届けてもらえるように申し込んでおくとよい。

 Splashtop内に含まれるGPLでライセンスされたソースコードは、すでに開発者によるダウンロードが可能だ。現在のリリースは49Mバイトのtarballになっていて、次の2つの部分に分かれている。“コア(core)”パッケージには6つのカーネルパッチが、“アプライアンス(appliance)”パッケージにはウインドウマネージャBlackboxおよびそのユーティリティ群に対するパッチが含まれている。

 SDKのバンドルは驚くようなことではないが、この先の長い道のりへの第一歩といえる。「やるべきことは非常に多く、この会社はまだ設立後間もない。だが、SDKのリリースはどうしても優先させたい」(スペイサー氏)。

瞬間起動の素晴らしさ

 新しいマザーボードやノートPCを購入する予定がない人にとっても、Splashtopは一見に値する。わたしがF8SaノートPCを使ったのは1週間と少しだったが、すぐに起動するLinuxの高速動作と便利さに慣れると、当初の考え方はすっかり変わってしまった。

 最初は、瞬時に起動するシステムがこれほど便利だとは予想していなかった。“朝一番のメールチェック”や“非常事態”といった場面での価値は理解できたが、そんなにたいしたことには思えなかったのだ。また、普段からノートPCはコーヒーテーブルに置きっぱなしで、インターネットには電話機でアクセスしているという事情もあった。

 だがそのどちらも、Splashtopのブラウザの使いやすさにはかなわない。Splashtop環境でのブラウジングは電話を使うよりも高速で使用感に優れており、IMDB(International Movie DataBase)で俳優の名前を検索するなど、ちょっとした調べ物をする際にもノートPCのようにリソースを消費せずに済む。

 スペイサー氏は今後のビジネス展開についてはコメントしてくれなかったが、今後はASUS以外の製品でもSplashtopの搭載が予想されるというヒントはくれた。この瞬間起動の体験が広まれば、きっとオープンソース開発者たちが新たな方向へと進むアイデアを出してくれるだろう。

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