メディアが変わる!? ―― Google版Wikipedia「Knol」の衝撃Weekly Memo(2/2 ページ)

» 2008年07月28日 07時03分 公開
[松岡功ITmedia]
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懸念される編集責任の所在

 かつてWikipediaが登場したときも、これが果たして社会やメディアにどれだけの影響を及ぼすのか、さまざまな角度から論議が巻き起こった。そしてネット社会の進化の過程として、WikipediaはWeb 2.0の象徴とも言われた。Knolは果たして、その亜流なのか。もしくはまったく新しいものが生み出されようとしているのか。

 まず将来的に大きな影響を受けると思われるのは、メディア産業だ。今のところGoogleは、メディア会社としてコンテンツ制作まですべて手がけるつもりはないようだが、動画投稿サイトの「YouTube」にせよ、今回のKnolにせよ、ユーザーが生み出したコンテンツを囲い込むための仕組みづくりには、非常に熱心だ。そしてその根本には、Googleのビジネスモデルである広告収入の基盤拡大がある。

 それを踏まえてKnolの仕組みを見てみると、もしこれが大成功を収めていけば、既存の出版メディアを丸呑みしていくような気がしてならない。

 ただ、メディアに関する論議で1つ懸念されるのは、編集責任を執筆者に任せて本当にいいのか、ということである。編集責任というのは、単なる編集作業の責任者ということではない。そこには掲載したコンテンツ内容におけるリスクマネジメントも伴う。例えば、Knolに掲載された記事がもとで訴訟問題になった場合、Googleはどうするのか。

 記事の記名入りは、ネット社会をリードするGoogleとしての見識だろう。一方で、記名入りはそのメディアおよび執筆者と、読者との信頼関係の証しともなるものだ。したがって、記名入りには高度な編集責任が伴う。巨大なナレッジベースになるであろうKnolのすべての記事について、Google側で編集責任を持つのは、現実的に不可能だろう。とはいえ、記名入りにこだわるならば、それ相応のリスクマネジメントを行うべきだと考える。

 Knolについては他にも、Googleが検索結果を有利に工作するのではないか、あるいは企業やPR会社の格好の記事体広告の場になるのではないか、といった懸念も指摘されているようだが、とにかくGoogleの壮大な戦略は動き始めた。いずれは日本語版も登場するだろう。メディアのありようを大きく変える可能性もあるだけに、今後も大いに注目していきたい。

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プロフィール

まつおか・いさお ITジャーナリストとしてビジネス誌やメディアサイトなどに執筆中。1957年生まれ、大阪府出身。電波新聞社、日刊工業新聞社、コンピュータ・ニュース社(現BCN)などを経てフリーに。2003年10月より3年間、『月刊アイティセレクト』(アイティメディア発行)編集長を務める。(有)松岡編集企画 代表。主な著書は『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。


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