セールスフォースとOBCの協業にみるソフトビジネスの変化と課題Weekly Memo

先週15日に発表のあったセールスフォース・ドットコムとオービックビジネスコンサルタントの提携は、今後のソフトビジネスを考えるうえで興味深いものだった。そのポイントとは――。

» 2008年10月20日 11時31分 公開
[松岡功ITmedia]

ソフトビジネスの“化学反応”

 「ERPパッケージNo.1とSaaS型CRMソフトNo.1、国産ソリューションとグローバルソリューション、クライアントサーバシステムとSaaS。こうした全くスタンスの違う両社が連携することで、新しいITサービスを生み出すことができた」

 セールスフォース・ドットコムの宇陀栄次社長は10月15日に開いたオービックビジネスコンサルタント(以下、OBC)との提携発表会見で開口一番、こう語った。

 提携内容は、両社の主力製品を連携させ、中堅・中小企業向けに提供していくのが骨子。OBCの和田成史社長も「勘定系と情報系、Web系とプロダクト系といったように両社のソリューションは異なるが、これからのネットワーク社会ではそうした違いを越えて、両分野のソリューション同士でデータ連携を図ることが求められている」と宇陀社長の言葉を引き継いだ。

 ソフトビジネスの“化学反応”ともいえる両社の協業。具体的には、セールスフォース・ドットコムのSaaS型CRMソフト「Salesforce CRM」とOBCのERPパッケージ「奉行V ERPシリーズ」を連携させることで、取引先情報や売上情報をはじめとしたデータをシームレスに連携し、管理できるようになるという。また、Salesforce CRMは多数の携帯端末との連携していることから、携帯端末でもシームレスな情報活用が期待できる。

obc 協業を発表したオービックビジネスコンサルタントの和田成史社長(左)とセールスフォース・ドットコムの宇陀栄次社長

 今回の両社の提携は、中堅・中小企業に向けた販路を獲得したいセールスフォース・ドットコムと、パッケージ販売主体の事業モデルにSaaSを取り込みたいOBCのそれぞれの思惑が一致した格好だ。

 セールスフォース・ドットコムにとって、すでに中堅・中小企業市場に深く浸透しているOBCのERPパッケージとの連携は、同市場に本格的に入り込む格好の足がかりとなる。OBCの製品は600社に上るパートナー企業が販売していることから、そのネットワークを通じてSalesforce CRMの販路を一気に広げることができる。

 一方、OBCにとっては、SaaS型CRMソフトの世界最大手であるセールスフォース・ドットコムと協業することで、SaaSを取り込んだ事業モデルを押し進めることができる。OBCは来年4月にSaaSを本格的にスタートさせる計画で、パートナー企業ともその事業モデルの構築を進めている。その意味で今回のセールスフォース・ドットコムとの提携は、SaaS移行への格好のステップとなる。

問われるSaaSにおける顧客満足

 両社協業のさらに詳しい内容については関連記事等を参照いただくとして、発表会見で筆者が非常に興味深かったのは、OBCの和田社長が語った今後のソフトビジネスのあり方だ。つまりはSaaSへの対応だが、同氏はこう持論を展開した。

 「SaaSは、データセンターにあるサーバにアプリケーションやデータを置いてWebでやりとりすることが前提となっている。しかし、私はそうした前提にとらわれることなく、まずはプロダクトそのものをネットワークから自由にダウンロードして利用できる仕組みを構築するべきだと考える」

 そして、その理由をこう語った。

 「お客様からすると、これまでカタログでしか確認できなかったソフトの機能や使い勝手を、ネットワークから自由にダウンロードして試すことができるようになれば、ソフトへの満足度はより高まるはずだ。使い続けると決めたときに正式に契約できるようにすればよい。アプリケーションの更新やバックアップ、メンテナンスなどはネットワークを利用する一方で、お客様にとって最も気になるデータは自分の手元に置いておくことができる。要するにどういう状態ならば、お客様は一番満足されるのか。それを考えると、私はSaaSにもいろんな選択肢があっていいと思う」

 Salesforce CRMに代表されるように、SaaS型ソフトが今、急速に普及し始めている中で、和田社長の主張には反論も少なくないかもしれない。しかし、OBCが展開しているERPはCRMと違って、国ごと企業ごとに対応せざるをえないケースが多く、「スケールメリットを活かしたSaaSには、ERPはなかなかフィットしない」(宇陀社長)とみられている。

 和田社長の主張には、そうしたSaaSとの相性も考慮されているとみられるが、一方で同氏は「SaaSへの移行は新たなイノベーションとして当然の流れ」だと捉えている。その意味では、プロダクトそのもののダウンロードも、本格的なSaaSへ移行する1つの過渡期的な対策なのかもしれない。

 ただ、「どういう状態ならば、お客様は一番満足されるのか。それを考えると、SaaSにもいろんな選択肢があっていい」という和田社長の主張には、耳を傾ける必要があるように思う。同氏がここで語っている顧客満足は、ITの仕組みに対してだけではない。データの置き場所に象徴されるように、経営のあり方、ビジネスのあり方にも踏み込んだ問いかけだ。すなわち同氏は、ITの本質を問うているのである。

 SaaS推進の急先鋒である宇陀社長も、発表会見の最後をこう締めくくった。

 「SaaS、そしてクラウドコンピューティング市場はこれから大きく広がっていくだろうが、肝心なのはお客様のニーズ。それに合わせてサービスの中身や提供の仕方なども変わっていくだろう。私たちもそうした変化に柔軟に対応できるように努めたい」

 SaaSにおける顧客満足とは何か。和田社長の問いかけを踏まえて、今一度考えてみたい。

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プロフィール

まつおか・いさお ITジャーナリストとしてビジネス誌やメディアサイトなどに執筆中。1957年生まれ、大阪府出身。電波新聞社、日刊工業新聞社、コンピュータ・ニュース社(現BCN)などを経てフリーに。2003年10月より3年間、『月刊アイティセレクト』(アイティメディア発行)編集長を務める。(有)松岡編集企画 代表。主な著書は『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。


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