無線LANの干渉を測れ【前編】計る測る量るスペック調査隊(2/3 ページ)

» 2008年10月28日 00時00分 公開
[東陽テクニカ,ITmedia]

解決策1.「使用されていないチャンネルを使用する」

 「使用されていないチャンネル」といっても、実際はそのチャンネルに割り当られた周波数帯が空いているわけではない。2.4GHz帯では14ch(2484MHz)を例外として*、2412MHzから2472MHzまで、5MHz間隔でチャンネルが配置されている。しかし、出力される電波は図2に示すように、チャンネルに対応した周波数を中心に、スペクトラム*に広がりを持っている。言い換えれば、あるチャンネルを使用する場合、実際にはそれに隣接するチャンネルに相当する周波数帯までも使用している、ということである。

スペクトラムの干渉 図2 スペクトラムの干渉

 従って、無線LANを使用する場合、干渉を避けるためスペクトラムが重ならないようチャンネルを選ぶ必要がある。つまり、14のチャンネルすべてを同時には使用できないのである。一般には、図2に示すように、チャンネルを5つ以上ずらせば干渉しないとされている。

 「使用されていないチャンネル」を適当に選んで使用した場合、スペクトラムが重なり干渉が発生する。しかしその場合、すでに使用されているチャンネルをそのまま使うよりも、スペクトラムの重なりが小さいはずで、影響は小さいように思える。そこで、このような場合にどのようにチャンネルを選べばよいのか、測定して調べてみよう。

スペクトラムの重なりによる速度低下を測れ――スペクトラム干渉実験

 2つの無線LANシステムを用意し、スペクトラムの重なりによる干渉の度合いの違いを測定した。実験環境には前回同様、米AzimuthのAzimuth Wシリーズ(Azimuth)を用いた。実験環境ではすべての無線LANデバイスをシールドBOXに収納し、デバイス同士をRF同軸ケーブルを用いて物理的に接続することで、外部からのノイズによる影響を排除している。

 今回の実験環境として、2セットのアクセスポイントと無線LANカードを用意した。それぞれの無線LAN環境を「WLAN1」「WLAN2」と名づけ、図3に示すようにAzimuthにそれぞれをセットする。さらに、この2つの無線LANシステムが十分近くなるように設定を行い、干渉の影響を測定する。

干渉測定実験環境 図3 干渉測定実験環境

 実験の概要はリスト1のとおりだ。WLAN1のチャンネルを1chに固定したまま、WLAN2のチャンネルを1chから6chまで変え、単位時間当たりにそれぞれの無線LANシステムが送信できるフレーム数を測定する。また、2.4GHz帯を使用する無線LAN規格としてはIEEE802.11b(11b)とIEEE802.11g(11g)の2つがあるので、11b同士、11g同士、11bと11gという3つの組み合わせで実験を実施した。また、11bと11gの組み合わせ*ではWLAN1を11g、WLAN2を11bとしている。

  • 使用するチャンネル:

  WLAN1:1ch

  WLAN2:1ch〜6ch

  • 使用する無線LAN規格:

  1.1IEEE802.11b同士

  2.IEEE802.11g同士

  3.IEEE802.11g(WLAN1)と11b(WLAN2)

  • 使用フレームサイズ:1518バイト
  • 各無線LAN規格の組み合わせに対し、WLAN1を1chに固定、WLAN2を1chから6chまで変化させパフォーマンスを測定する

リスト1 スペクトラム干渉実験概要

実験結果概要

実験結果概要

 まず、実験結果の概要を図4〜6に示す。全体としては1ch⇔5chでおおむね干渉による影響がなくなり、1ch⇔6chでほぼ影響がなくなるという結果が得られた。また、干渉が発生している環境では、理論上の最大通信速度を2つの無線LAN環境で分け合う形になっている。

 さらに、実験結果の詳細を見てみよう。図7が11b同士、図8が11g同士、図9が11bと11gによる干渉実験の詳細な結果だ。それぞれのグラフは横軸が測定開始を基準とした時刻、縦軸がその時刻での、各単位時間当たりフレーム送信数を表している。


  • 11b同士
図7 図7 スペクトラム干渉実験詳細(11b同士、抜粋)

 この場合、WLAN1とWLAN2で同じ帯域を奪い合っている様子が見て取れる(図7a、b)。誌面の都合上一部のグラフは割愛したが、どのグラフも同様に、片方のフレーム送信数が増加するともう片方は減少する、という傾向になっていた。また、図7cの1ch⇔5chでは、ほぼ別々の帯域を占有しているように見える。これは1ch⇔6chの場合でも同様だった。


  • 11g同士
図8 図8 スペクトラム干渉実験詳細(11g同士、抜粋)

 基本的な傾向は同じだが、11b同士のときよりも帯域の奪い合いが激しさを増す。11bのときと同様に1ch⇔1chから1ch⇔4chまではWLAN1とWLAN2で同じ帯域を奪い合い、1ch⇔5chや1ch⇔6chではほぼ別々の帯域を占有している。さらに、1ch⇔2chから1ch⇔4chではどちらか一方が多くの帯域を消費し、もう一方はその影響で帯域を使用できない、という傾向が強くなっている。特に、1ch⇔3ch(図8c)ではWLAN1(1chを使用)はほとんど帯域を利用できない状態になっていた。また1ch⇔2ch(図8b)では、使用できる帯域が非常に不安定な変化をしていることが見て取れる。この現象は1ch⇔4chでも確認された。


  • 11bと11gを組み合わせた場合
図9 図9 スペクトラム干渉実験詳細(11gと11b、抜粋)

 1ch⇔1chから1ch⇔4chまではWLAN1とWLAN2で同じ帯域を奪い合い、1ch⇔5chや1ch⇔6chではほぼ別々の帯域を占有するようだ。しかし、1ch⇔2ch(図9b)や1ch⇔4chの組み合わせでは、WLAN2(11b)はほとんどすべての帯域をWLAN1(11g)に奪われた。また、同じチャンネルを使用した場合(1ch⇔1ch)でも、図9aのように一時的にほとんどすべての帯域をWLAN1(11g)が消費する現象が起こった。しかし、不思議なことに1ch⇔3chの場合(図9c)だけはお互いに帯域を分け合い、安定しているように見える*

 これらの結果を見る限り、「スペクトラムの重なりが小さくなると干渉の影響が減少する」ということはない。さらに実験結果の詳細から、中途半端にチャンネルをずらすと、パフォーマンス的にはむしろ逆効果であると考えられる。よって、「利用されていないチャンネルを使用する」ことはあまりお勧めできない。既存の無線LANに対し、中途半端にチャンネルをずらした場合、ほとんどの帯域を勝ち取れるケースもあるものの、不安定だったり、逆にほとんどの帯域を奪われる可能性もある。どうしても利用できるチャンネルがない場合は、むしろ既存の無線LANと同じチャンネルを使用した方が帯域の分け前を安定して受け取れる可能性が高い。

このページで出てきた専門用語

14chを例外として

13chと14chの間は例外的に12MHz開いているが、これは1〜13chと14chで規格が異なるためである。

スペクトラム

信号エネルギー強度の周波数ごとの分布状態のこと。横軸に周波数、縦軸に信号強度をとったグラフで表す。

11b11gの組み合わせ*

IEEE802.11gは11bと互換性を持つため、11g/b端末を混在させて利用できる。しかし、その場合11bの端末は11gの端末から発せられる信号を認識できないため、そのままでは干渉が発生する可能性が高い。そのため、11g端末には、11b側が認識できる形で11gの通信時間を通知することで干渉を防ぐ機能が搭載されている。ただし、これを使用すると一般に通信速度は低下する。今回はこれらの機能を使用せずに実験を行った。

1ch⇔3chの場合だけはお互いに帯域を分け合い、安定しているように見える

何度かこの実験を繰り返して、再現性があることも確かめた。しかし、なぜ1ch⇔3chの場合だけ安定した状態で帯域を分け合うのかは不明である。


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