複数の無線LAN環境で使用するチャンネルがバッティングしてしまい、パフォーマンスが低下してしまった場合、「電波の出力を上げればもう一方の無線LAN環境の影響を弱められるのでは?」*と思われるかもしれない。そこで、次の実験では無線LANの出力によって干渉の発生時にパフォーマンス差が出るかどうか、検証してみよう。
スペクトラム干渉実験とまったく同様の環境を使用し、アクセスポイントの出力設定を25%とした場合に無線LANが送信できるフレーム数がどう変化するのか、測定を行った。実験の概要はリスト2のとおりだ。チャンネルを固定してアクセスポイントの出力を変え、送信できるフレーム数の変化を測定している。
実験結果を図10〜12に示す。11gと11bの組み合わせ(図12)では11bの出力によって11gのパフォーマンスが多少変化したが、そのほか(図10、11)は出力とパフォーマンスの関係はほとんど認められなかった。この実験結果から、ほかの無線LANから干渉を受けていることが明らかな場合、無線LANの送信出力を増減してもほとんど問題の解決は期待できないということになる。
この理由は、実は次のように説明できる。無線LANのMACで用いられているCSMA/CAでは、伝送媒体(すなわち無線通信を行う空間)が使用中であれば、送信すべきフレームを持っていたとしてもノード*は送信を控え、伝送媒体が空いたらほかのノードとの競合を避けるようにしながらフレームを送信する。このとき、複数無線LANシステムが存在し、同じ時間帯に通信をしようとした場合は干渉が発生しパフォーマンスが低下するが、この場合の「干渉」はあるノードがフレームを送信中に別のノードがフレームの送信を抑制することによって防止できる。つまり、CSMA/CAがうまく機能していれば干渉はあまり発生しない。そのため、無線LANのパフォーマンスはフレームを送信できる確率に依存し、フレームが強い信号で送信されるかどうかはほとんど問題ではないのである。
また、チャンネルを中途半端にずらした場合に片方の無線LANがほとんど通信できない状況に陥るのは、チャンネルのずれによってCSMA/CAが機能しにくくなっているのではないか、と推測できる。
以上から、空いているチャンネルがない場合、チャンネルをずらす、出力を変えるといった設定によってパフォーマンスを確保することは難しいことが分かった。建物の中ですべてのアクセスポイントに対し同一のチャンネルを使用しないよう設定することは現実問題として不可能である。しかし、距離が離れたり、壁や床、障害物などの影響によって信号は減衰する。そのため、アクセスポイントを十分離すことによって同一のチャンネルを干渉することなしに使用できる。そこで、次回は無線LAN環境間の距離による干渉の差を検証する。
出力を設定できる無線LANアクセスポイント製品であっても、その多くはデフォルトで出力が最大に設定されていることが多い。そのため実際に「アクセスポイントの出力を上げる」ということが可能かどうかは不明である。
ネットワークに接続されている端末のこと。無線LANでは「ステーション」とも呼ばれるが、本稿ではすべて「ノード」で統一している。
ただし、IEEE802.11aの場合5GHz帯を使用するので、これらの電波と干渉することはない。
TCPの通信を確立するために、通信を行うクライアントとサーバ間でやり取りされる
パケットの1つ。
無線LANの実パフォーマンスを測定せよ【後編】
無線LANの実パフォーマンスを測定せよ【中編】
無線LANの実パフォーマンスを測定せよ【前編】
サーモグラフィでPCの発熱を測定せよ【後編】
サーモグラフィでPCの発熱を測定せよ【前編】
UTPケーブルの限界に挑戦せよ
LANケーブルの仕組みを理解して自作せよ
PC電源のノイズ耐性を測れ【後編】
PC電源のノイズ耐性を測れ【前編】
ネットワークスイッチの性能限界を調べろ!
ネットワークスイッチのスループットを調査せよ【前編】
ネットワークスイッチのスループットを調査せよ【後編】Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.