顧客の顧客に注目する「2009 逆風に立ち向かう企業」富士通(1/2 ページ)

2008年に就任した富士通・野副社長の好きな言葉は、成功するために耐えるという臥薪嘗胆。米国の金融危機に端を発する大きな不況の中で、舵取りが世界から注目されている。

» 2009年01月14日 10時30分 公開
[聞き手:伴大作, 浅井英二,ITmedia]

 2008年に就任した富士通の野副州旦社長は、直後に金融危機に見舞われたものの、グローバル化を軸にしながら、「顧客の顧客」のニーズに注目して事業を展開する。好きな言葉は、成功するために苦労に耐えるという意味の「臥薪嘗胆」という野副氏に、2008年を振り返り、2009年を展望してもらった。

野副州旦社長。福岡県出身で早大卒

ITmedia 2008年社長に就任し、あっという間に世界的金融危機に見舞われてしまったと思いますが、今年の世界経済の行方をどのように見られているのでしょうか。

野副 難しい質問ですね。今回の不況は一般的にいわれているような2009年中の回復は100%あり得ないと見ています。2010年それも後半になって、やっと回復するというようなもので、金融危機の影響は深刻だと私は思います。ただ、私が社長になって、富士通の上半期の決算を発表しましたが、年初に発表した予測を1割程度営業ベースでは上回って、改善した数字が集計されました。ただ、その時点では、景気が悪化する事だけは分かっていましたが、これ程の速度で悪化するは予想もできませんでした。

 いろいろな専門家が100年に一度の不況と評しているようですが、その通りの状況だといえます。

野副 そういう経済環境下ですが、富士通はグローバルを目指すということを中期の事業計画で目標として明確にしているので、景気の悪化を理由にして、従来の中期事業計画を変更することはしません。具体的には営業利益率5%、海外収益比率40%は2009年中に達成することに変更はありません。2008年に進めてきた「より強い富士通」を標榜したさまざまな取り組みを2009年はさらに強化し実行します。

 就任の記者会見で申し上げたように、黒川前社長の掲げた目標を2008年度は実現に移してきました。グローバル化でも単に数字を持ってくればいいというものではない。根底には世界で通用するプロダクト、サービスがなければならない。従来の視点を全て変えないといけない。

 具体的には従来の日本からグローバル化をするという手法は間違っています。グローバルで通用するプロダクトベースでないと駄目です。サービスも同じですが。世界に通用する製品、サービスをベースにグローバル化を進めていくつもりです。

 この課題に対して、11月にFujitsu SiemensとIA(Intel Architecture)サーバを共同開発するという発表をしました。これは、富士通グループの世界標準となるプラットフォームとなり、世界中の富士通グループでパートナーを巻き込んで販売します。それが、グローバル共通のプロダクツとなると考えています。

 このとき、日本市場は世界市場の中の1つに過ぎなくなります。そこで生まれたプロダクツやサービスの販売目標を地域、国の差異を意識しながら共有していくことになり、それがグローバルなプロダクトやサービスの提供のあるべき姿だと考えます。その点で、2009年は富士通の「真のグローバル化元年」だといえます。

ITmedia 野副さんが社長になられて、CMなどにおける富士通からのメッセージが随分変化したと思っています。これはブランドイメージ向上と売上高の向上に寄与しているとお考えでしょうか。2009年もこの方針は継続していくのでしょうか。

野副 従来、富士通には良い製品を作ればユーザーは買ってくれるという考え方が社内にありました。その方針は変えました。わたしの考えでは、テレビを含め、新聞などのメディアへのメッセージは正直言って、お客様に向けたというより、社内の人間や、それに関係する人達、親御さんとか家族、富士通のステークホールダーに向けてというふうに考えています。

 富士通を語る時に「富士通はどんな会社」という漠然としたイメージをこれまではあまり明確にしてきませんでした。

顧客の顧客に注目

ITmedia グローバル化への対応、経営効率の向上など日本企業のITを巡るさまざまな課題が山積しています。経済産業省も「IT経営」を標榜しています。弊社では、昨年から、企業ユーザーにターゲットを絞り、その方たちが何を考え、望んでいるかを考え続けてきました。野副社長は日米の官庁や産業界のトップをよく知る経歴をお持ちですが、富士通の社長として、企業ユーザーや所轄官庁に対し、メッセージがございましたら教えて下さい。

野副 社長を引き受けた時に、黒川前社長のやり方を学び、守ろうと考えました。彼が常々言ってきたのは、お客様起点経営でした。わたしは前社長の路線を継承しますが、それに加えて、顧客の先にいる顧客を見るということです。富士通のユーザー企業の先にはその企業のお客様がいらっしゃいます。富士通は以前からユーザーと話をしてシステムを構築をしてきましたが、決してそれでは十分ではありません。

 拡張版の「お客様起点経営(Customer-Centric Management)」とわれわれは呼んでいます。例えばある百貨店大手のお客様がおり、その情報システム部門のお客様と話をしてシステムを構築するのですが、実際に運用に入った後になり、「どうも使い勝手が良くない」という話になったことがあります。デパートの情報システム部門の方と話をするだけでは、実際に最終的なサービスを受ける消費者の動向やニーズを把握できていなかったのではないかといった反省をしました。

 食品企業でも同じことがありました。顧客の購買行動は物流、商品製造、会計すべてに関係します。わたしが副社長時代に訪問した時に、新しく構築したシステムが全く経営の改善につながっていないと指摘されました。それで、黒川前社長と相談してフィールドイノベータを至急投入し、製造後の小売店への配送、消費者の来店時間や顧客の数と層まで、分析を行い、システムの改善につなげました。

 業務に関しては顧客の方が詳しいのは当然ですが、それをシステムに落とし込むのは富士通の責任ですから、結局は顧客の顧客をよく知るというのが、最良のシステムを構築するためには今後ますます重要になります。

 また、お客様の全体的な傾向として事業をグローバルに発展させていこうという意識が高いです。富士通が真のグローバル化に取り組んで入れば、顧客の要請に応えられると考えています。従来は取り組みの遅さを指摘されましたが、海外のオペレーションをFujitsu Siemensの責任者に一本化したことにより、従来の意思決定のプロセスが従来の日本的な形態から、完全に欧米式に変わりました。やはり意思決定は格段に早くなりました。これで、ユーザー企業のニーズに迅速に応える体制が出来上がったと思っています。

ITmedia 野副社長の経営の意思決定の手法は、欧米系企業のものに似ていると感じます。今後の舵取りをどう考えていますか。

野副 確かに会議の運営方法などはかなり変えました。もちろん、議論を尽くす点では従来通りですが「決定」をあくまでも重視します。これまでの富士通の会議では、決定されたことに対し、会議の後でも決定のプロセスや実施に異論が起きていました。しかし、今後は決定が下されたら、それへの異論や懐疑的な見解は認めません。

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