OracleはSun Microsystemsを74億ドルで買収すると発表した。わたしが長年主張しているコンピュータ業界におけるパラダイムシフトそのものである。
4月20日、商用ソフトウェア最大手Oracleは、2008年来株価の低迷にあえいでいたSun Microsystemsを74億ドルで買収すると発表した。
1カ月前、IBMが65億ドルでSunを買収する意向を表明し、順調に進むと見られていた。だが、途中でIBMは買収価格を引き下げる提案をして、これが破談につながった。
OracleのSun買収は2008年から続いた同社買収に関する物語がすべて終わることを意味する。同時に世界のコンピュータ業界で新たな秩序が形作られる新たな物語(パラダイム)が始まることを意味する。
最近の米国の景気は、幾つかの指数で回復の兆しが見られるものの、全体的にはまだまだ不況を脱していない。Citiを代表とする金融業界の話だけではなく、実体経済を代表する自動車、General Motors、Chryslerの大手二社が倒産の危機にひんしていることでも分かるとおり、いまだ崩壊寸前であることに変わりはない。
この記事では、このような米国経済の現状を踏まえ、なぜOracleはSunを買収するに至ったか、Oracleの思惑は、買収のメリット、デメリット、ライバル各社の反応(今のところ表立った反応を示している企業はないので、あくまでわたしの推測だが)、今後、OracleによるSunの買収がもたらす影響について記す。
サブプライムローンに端を発し、CDS(Credit default swap)の崩壊で米国の金融業界は一挙に崩壊の危機に立たされた。これは「強欲の成れの果て」と米国民は相当厳しい目を向けているが、一部の資産家と彼らから資金運用を託された人たちが大儲けしたのは事実だ。しかし、米国民全体が、金融資産の価格上昇とそれを担保にお金を借り、住宅を買ったり、新しい自動車を購入することにより「米国版土地バブル」に加担したのも事実である。
この結果、米国は世界最大の消費者市場となり、欧州やアジア各国の企業は米国の消費支出を当て込んで、輸出に精を出すという構図が出来上がった。今回の金融恐慌で、それが吹き飛んだ。
日本の自動車や電機メーカーが深い傷を負ったのは、本国での収益より、米国市場で上げる収益が大きな柱になっていたからである。
ところで、コンピュータ業界も上記の資産バブルの恩恵を受けた。一般消費者向けのPCはいうにおよばず、法人向けのシステム販売も好調だった。HPは好調な一般消費者向け販売に加え、旺盛な企業需要に支えられ売上高でIBMから首位を奪った。Microsoftも度々の独禁法訴訟に直面したが、好業績を維持した。
金が金を生む金融業界向けのシステムビジネスも好調で、基幹系業務に強いIBMは毎年史上最高益を更新し続けた。彼らがネットバブル崩壊を乗り越えた「勝ち組」の代表的な企業である。今回Sunを買収したOracleも勝ち組の一社であることは言うまでもない。
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