攻撃者が重要データを盗み出す際には、トロイの木馬やスパイウェア、バックドアといった複数のマルウェアを組み合わせて実行するケースが多い。一般のPCユーザーを狙うような攻撃では、ウイルス対策ソフトなどで検知・駆除できる場合があるが、特定の企業が標的にされる場合、攻撃者が既存のマルウェアを大幅にカスタマイズしたり、専用に開発したりしているため、ウイルス対策ソフトでの検知はほぼ不可能だという。
サーティン氏のチームは、過去数カ月の間に「RAMスクレーパー」と呼ばれる新たなマルウェアを発見した。RAMスクレーパーは、実行中のメモリ領域や転送中のデータといったセキュリティ対策のすき間を突いて情報を盗み出すもので、企業が独自に発見するのが難しい。
あるリゾート業界の企業で発生した不正アクセスでは、予約管理システムにRAMスクレーパーが仕掛けられていた。システムでは、顧客が入力したクレジットカード情報を暗号化して転送し、データベースでも暗号化されたデータを登録する仕組みだった。なお、データベースへの転送中に受け取ったデータを決済処理する必要から一旦復号化し、処理が完了すると再び暗号化していたという。
システムのメモリ上に仕掛けられたRAMスクレーパーは、データが平文になる瞬間を狙って特定の文字列パターンやシーケンスを抽出し、システム内に密かに作成したフォルダに格納する。さらに、ライターと呼ばれる別のマルウェアがこのデータからクレジットカード番号などの情報をファイルに書き出していた。攻撃者は、ライターが作成したファイルからクレジットカード番号を多数入手し、偽造カードを作成していた。
また、RAMスクレーパーはWindowsの仮想メモリも標的にするという。Windowsではメインメモリ領域が不足した場合にHDD上の未割り当て領域を仮想メモリとして使用する。処理が完了すると、ユーザーの視点からはデータが存在しないようになるが、HDD上には物理データが残されたままになり、RAMスクレーパーはこのデータを抽出して攻撃者に提供する。
サーティン氏はWindowsのこうした仕様が脆弱であると指摘する。データ保護の技術対策として暗号化が広く推奨されているが、転送処理中に暗号化データをそのまま処理することは難しく、一般に知られたセキュリティ対策のすき間を突く新たな攻撃手法であるという。
「セキュリティ対策を強化するためのさまざまな基準や指針があるが、これらに準拠していれば安心だということはない」とサーティン氏。後半は不正アクセスを防ぐための対策ポイントをお伝えする。
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