精巧に人体を模倣することに成功したロボット。しかし、自律的かつ協調的に行動するには別の研究成果を活用する必要があるようです。ロボットがヒトに進化するには何が足りないのでしょうか。
この連載で過去数回にわたって紹介してきたロボットは、基本的にはそれ単体のロボットとして設計され、それが人間とどう接点を持つか、という視点でとらえられてきました。しかし、ロボットが人間社会に深くかかわってくるにつれ、ロボット同士がお互いをどう認識するかについても注目されています。
例えば、ロボットがお互いを動く障害物としか認識していないとすればどうでしょう。この場合、ロボット同士が協調して作業することはありません。一方、人間社会をみてみると、人間同士が協調して生活しており、ここに人間とロボットのギャップが生じています。ロボットが自律的かつ協調的に行動するにはどうすればよいか、それを考えるのが「自律分散型ロボット」という分野です。
自律分散の考え方自体は、ハチやアリといった生物から着想を得ています。ハチやアリは、個体ではそれほど複雑な動きをしませんが、集団として見てみると、力を合わせて外敵を退けたり、餌を採取するなどの協調行動を取っています。特にアリは、雄アリ、雌アリ、働きアリといった階級があり、女王アリを中心にコロニー(集団)で生活しており、それぞれのアリには仕事が割り振られ、1つの社会ができあがっています。
読者の皆さんの中には、蟻コロニー最適化アルゴリズムをご存じの方もおられるかと思います。各個体が局所的情報のみに基づいて行動し、その相互作用から全体の協調が生み出される群行動は、ハチやアリだけでなく、鳥や魚にもみられます。これらは「群知能」と呼ばれる人工知能技術として研究が進められており、自律分散型ロボットの実現には、この群知能が大きな役割を果たすとみられます。
そもそも、群知能の考え方でいえば、人間も群知能です。1つ1つの細胞には意志もなければ、複雑な機構を備えているわけでもありません。しかし、それらの細胞が組み合わさって臓器や脳、さらには人体といったように複雑な特性を生み、さらには人間社会が形成されているのです。複雑系の理論では、これを「創発」と呼びますが、ロボットが人間と共生していくためには、自ら創発を起こすロボットが最も違和感なく受け入れられるものとなるでしょう。
そうした意味では、以前紹介したクレイトロニクスは、群知能を備えたロボットであるといえます。ナノスケールの超小型コンピュータが複雑で高度な群行動をすることで、複雑な特性を生んでいるのです。クレイトロニクスは、わたしたちがロボットという言葉で一般的にイメージするものからするとかなり異質ですが、これも立派なロボットなのです。
現在のロボットとこれからのロボットについて考えてみると、ロボットは技術の粋を結集したセンサーやアクチュエーターによって実現される生物模倣の段階を経て、学習・判断といった能力を模倣し、さらには自律性や人間との協調といった領域に踏み込みつつあります。そして、先に進むにつれ、ロボットの定義があいまいになるとともに、生物行動の不思議さが再確認されています。生物や人間社会を手本とし、その成果をフィードバックすることで生物の生態や人間社会の研究も進むという共創状態となりつつあるのです。
アトムのようなロボットが現実に誕生するまでには、まだ時間が掛かるでしょう。逆に、アトムが誕生するとすれば、精巧に作られた生体の解明が進む必要があります。ロボット開発は、人間が人間たるゆえんを探す道程なのです。
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