西暦2000年問題からまもなく10年。業界内では、2011年に顕在化するとみられる問題に頭を悩ませるメーカーがいたるところで見られます。今回は、2011年問題と呼ばれるメーカー泣かせの問題についてみていきます。
コンピュータの動作に何らかの異常が発生する可能性が取りざたされた西暦2000年問題からまもなく10年。わたしたちは、新たな問題に直面しようとしています。今回は、2011年前後で発生するとみられる問題について取り上げたいと思います。
ご存じの方も多いと思いますが、2011年7月24日、地上アナログ放送が停波し、地上デジタル放送に完全移行します。これに伴って発生すると予測されているのが、ブラウン管テレビの大量廃棄です。電子情報技術産業協会が2007年年3月に発表した予測では、2007〜2013年の排出量の総数は約6428万台。特に停波直後の2011年には約1800万台に達し、2006年度排出量の約2倍となるブラウン管(CRT)型テレビが廃棄される見込みとなっています。
2001年に施行された特定家庭用機器再商品化法、いわゆる家電リサイクル法により、メーカーはCRT型テレビの再商品化率55%を達成することが義務づけられています。しかし、大量生産による低価格化が進んだことで、家電量販店の店頭などで販売されているテレビのほとんどがCRT型テレビから液晶テレビへと変わっている現代。CRTガラス自体の需要自体が減っており、昔と比べるとリサイクルが難しい状況になりつつあります。
家電リサイクル法では「製品の部品または材料として有償または無償で譲渡しうる状態」にすることが「再商品化」と定められています。これは、お金を払って引き取ってもらう(逆有償)分は、再商品化したと見なされないことを意味しています。つまり、メーカーはすでに国内の需要はほとんどない状態でCRT型テレビをリサイクルしなければならない状態にあるのです。
CRTのリサイクルは、パネル部(前部)とファンネル部(後部)を分割する必要があります。これは、ファンネル部には放射線遮蔽のため、生物に対して蓄積性がある鉛(Pb)が含まれるためです。ほかのガラスにリサイクルしようにも、鉛が含まれているため、食器用ガラスはもちろん、照明用ガラスや建材用のガラスブロックへの転換も現在の技術では困難であり、ガラス繊維の原料や鉛精練への利用といったケースを除けば、リサイクルされるガラスのほとんどが再びCRTガラスの原料とするしか使い道がない状態となっています。上述したように、CRT型テレビの需要自体が縮小している中で、CRT型テレビにしか利用できないようなCRTガラスのリサイクルを巡って、メーカーは頭を悩ませているわけです。
そこにきて、2011年にCRT型テレビの大量排出が予想されることで、この問題がさらにクローズアップされるようになりました。大量のCRTテレビが一時期に集中して排出されることで、リサイクル工場の処理能力を超えてしまうという問題もありますが、例えば日立はプラントの設備増強で対応する姿勢を見せていますし、最近になってパナソニックとパナソニックエコテクノロジーセンターがレーザーを用いた分離方法を発案し、処理時間の短縮に成功していますので、目下の問題は、どうリサイクルするかであるといってよいでしょう。
では、ベンダーはどうしているかというと、韓国、タイ、シンガポールといったアジア諸国にCRTガラスの原料として輸出しているのですが、鉛は有害物質の越境移動を禁止するバーゼル条約に抵触するため、輸出国と輸入国の合意がなければ簡単に輸出できず、判断基準を政府に求めています。環境省は2009年6月、使用済みCRT型テレビを輸出する際の判断基準を明示しており、9月からこの基準が適用される予定となっています。
ただ、日本がそうであったように、国際的に見てもCRTガラスの需要は減少傾向にあります。当面は、まだCRT型テレビの需要がある国への輸出でしのげるかもしれませんが、そう遠くない将来に破たんする危険性は高いといえるでしょう。
CRT型テレビのリサイクルは、新しい使い道が見いだされない限り、暗雲が晴れることはないようです。消費者であるわたしたちには2011年問題はさほど問題ではないように思えるかもしれませんが、今後、最終処理費用のコストの負担などといった形で顕在化してくる可能性があります。一時代を築いたブラウン管ですが、いまではメーカーのお荷物となっているのが何だかさみしいところです。
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