ペーパーレスを進めて業務効率化とコスト削減を達成しよう――。デジタル整理術に取り掛かっても、目的とプロセスを誤れば本末転倒の結果を招きかねない。目的達成に向けて最初にすべき点を大木豊成氏が紹介する。
「環境に配慮するために、ペーパーレスを目指す」――とあるIT企業が2005年に発表しました。社内では極力印刷しないことを心掛け、社内外のやり取りはPDFでの受け渡し。一見すると、とても環境に優しく、業務上でも印刷作業の手間や時間を省けて合理的になったように見えました。
ところが現実は、来客との打ち合わせあるいは客先での打ち合わせにどうしても紙で見せる必要が生じることになり、その結果ペーパーレスを理由に減らしたはずのプリンタの前に行列ができることになってしまいました。会議に遅刻する社員が続出し、外出する前の営業マンや打ち合わせを直前に控えたスタッフが腕時計を見てイライラしながら、延々と印刷を続けるプリンタを見つめているのです。これは、ペーパーレスが目的化してしまった1つの例といえるのではないでしょうか。
紙を無くすことが悪いのではありません。ただ、そのこと自体が目的ではないはずです。本当の目的が何なのかをはっきりさせないまま仕組みを導入しても、運用が追いついてこないのが実情なのです。「なぜ紙を無くしたいのか」「なぜデータで受け渡しするほうが良いのか」「本当に紙は要らないのか」「もし必要だとするとどの業務は紙の出力のほうが適切なのか」――それらを考えていると、100%紙を無くすことが良いとは限らないことがみえてくるはずです。Aはファイルで受け渡しするべきだが、Bは紙の方が良いということだってあるはず……。それを実行するためには、自社の業務を棚卸しする必要があるのです。
ペーパーレスは、環境にとっても確かに良いことです。しかし一方で、ペーパーレスをすることだけでは足りないことも事実です。ペーパーレスをするために電気製品がフル活動になっているとしたら、結果的に印刷物を使う方が環境には良いかも知れませんし、また、業務効率が高まることも考えられます。
大事なのは、そもそも会社として何のためにペーパーレスを目指すのか、あるいはペーパーレスとセットで考えることは何か、そして、ゴールはどこになるのかといったことを考えたうえで取り組むことです。環境のために取り組むのか、自社の業務整理のためにやるのか、あるいはほかに目的があるのか。そこを明確にしてから取り組むことで、「何から」「どこを」「どのように進めるのか」という点も明確になるのです。
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